▶再録集2
《カテゴリ:再録集@既刊詳細》
■収録内容(目次より)
【BE TOGETHER(※合同誌より再録)】
【subtle affection】
【subtle friendship】
※カップリング注意!
シャア×アムロ前提の万丈×アムロ(R18)です
『subtle affection』の後日談になります。
【Passing】
※カップリング注意!
シャア×アムロ前提のカミーユ×アムロ(R18)です
【あむろ1/2】
※アムロ女体化(後天性)注意!コメディです
■サンプル(BE TOGETHERのみ)
ティターンズとエゥーゴ、そしてネオ・ジオンが絡んだ三つどもえの戦いが収束し、ようやく訪れた平和も束の間、人類は新たな驚異に晒されていた。敵は地球人だけではない。地底だの、別の銀河だの、別の次元だのから攻めてくる多くの敵と戦う為には地球人同士で争っている場合ではないのだが、主義主張の違いはそう簡単に割り切れないのか、地球人類が一丸となって戦う―――などと言う状況にはならなかった。
幸い、モビルスーツやロボットを開発している民間の研究所などの協力を得て多少は戦力を増強できたものの、グリプス戦役などで多くの人材を失った地球連邦軍の戦力不足は否めない。
そんな状況の中、連邦軍で一番大きな戦力が纏まっている……つまり連邦軍の主力であるロンド・ベル隊の艦長ブライト・ノアは一つの決断を胸に、部隊のスタッフを招集した。
「地球に降りる? この時期にか?」
ブライトの提案に表立って反対はしなかったものの、賛成は致しかねるという様子で理由の説明を求めたのは、グリプス戦役で一度は行方不明になっていたクワトロ大尉だ。
「艦長には何かお考えがあるのでしょうけど、この時期に地球に降りるのは作戦上あまり意味があるとも思えませんね」
クワトロの意見に同意して口を開いたのは、民間人ながらロンド・ベル隊に多くの資金を援助し、自らもダイターン3を駆って戦闘に参加する破嵐財閥の総裁、破嵐万丈。ほとんどが未成年で占められている民間人パイロットの中で彼の存在は貴重だった。
「君たちの意見はもっともだが、どうしても仲間に加えたい人物とようやく連絡がついてね」
「その人物が地球にいるから向かえに行く…と言う訳ですね? でも戦艦で向かえに行くのは大袈裟過ぎませんか?」
会話に加わってきたのはエマ・シーン中尉、民間人のパイロットが多い中で数少ない正規軍人の彼女は、現状での戦力不足を充分認識していたが、戦艦が地球に降りる―――大気圏を突破しなければならないリスクも承知していたので、相手にシャトルで宇宙へ上がって貰う事は出来ないのかと言いたいのだ。
「むろん私もそれは考えた。だが、彼らは今、連邦軍の監視下で軟禁状態でね。自力で宇宙に上がってくるのは難しいのだ」
ブライトの台詞で向かえに行く相手が誰なのかを察したのはクワトロ大尉だ。
「まさか……その向かえに行く相手と言うのは、アムロ・レイか?」
驚きと期待の入り交じったクワトロの台詞に、ブリーフィングルームがざわめいた。
「アムロ・レイってあの有名な…?」
「一年戦争の英雄の……」
『ジオンの赤い彗星』と呼ばれたシャアに対し、一部では『連邦の白い悪魔』などという通り名で噂されるアムロ・レイの名を知らない者はいない。
「そうだ。それにカミーユも一緒らしい」
ざわめくメンバーの声を取り敢えずは聞き流し、ブライトは頷いて見せた。
「カミーユも一緒なんですかっ!?」
ブライトが口にした名前に、アムロの時以上に反応したのは二人の女性―――エマと、そのカミーユの幼なじみでグリプス戦役では戦友でもあったファ・ユイリィだ。彼女は、グリプス戦役で負った『傷』が回復した頃に行方不明になってしまったカミーユの行方をずっと捜していたらしい。
「なるほどね。一年戦争の英雄と、グリプス戦役の功労者が消息不明だったのは、軍によって監禁されていた訳か」
破嵐財閥が持つ情報網を駆使しても行方が掴めない筈だと眉を顰めた万丈にブライトが苦笑する。
「奴らはこんな事態になってもまだ、本当の敵よりも有りもしないニュータイプの軍閥化を恐れているらしいな」
そのニュータイプの力が多くの戦局を有利に導いた事を承知で、感謝するよりもその力を恐れて飼い殺しにする事を選ぶ軍上層部には言いたい事が山ほどあるが、今はそれを議論している時ではない。
「しかし、軍によって軟禁されている者をロンド・ベル隊が脱出させたとなると、色々とマズイのではないですか?」
そう口を挟んだのは、話題になっているアムロやカミーユと同じくガンダム系のパイロットであるシロー・アマダ少尉だった。彼自身はいい加減、連邦軍にはウンザリしていたので今更軍を辞める事になっても構わなかったのだが、最終的には全ての責任を負うことになるであろうブライトの立場を思いやったのである。
「なに、今は連邦軍も混乱しているからな。アムロやカミーユを軟禁する連中もいれば、彼らを救出して戦闘に参加させろと命令してくる勢力もある。今回の作戦はそちらの系統から出された正式な命令なのだ」
だから大丈夫と―――自分の立場を思いやってくれるメンバーに軽い口調で言うと、
「軍の中にも話の分かるオッサンはいるってことだな!」
「それなら話は早い。さっさと英雄達の救出に向かおうぜっ!」
どんな状況に置かれても前向きで明るいスーパーロボットの少年パイロット達が元気に発言する。そんな彼らの言葉を後押しに、ロンド・ベル隊の地球への降下が決定された。
「……ちら…地球……軍のア……レイ、ロン……ベ…隊、応答願い……す。こちら、アムロ・レイ。聞こえているか? ブライト」
次第にクリアになっていく通信機からの声を、シャアは百式のコクピットの中で聞いていた。懐かしいと言えるほど声を良く知っている訳ではない。実際に本人と会ったのは数えられるほどでしかないのだ。だが、どんどん近づいてくる『気配』は良く知っている。一年戦争の頃は敵として、グリプス戦役の時は味方として戦場を共にした相手―――
ロンド・ベル隊に向かってくる多数の敵に追われるようにして、味方の識別信号を出している機体が二機。それがアムロとカミーユの乗る機体の筈だ。一機はシャアも良く知っているZガンダム。おそらくこれにカミーユが乗っているのだろう。もう一機はZガンダムのウェーブライダー型に似た機体(後からリ・ガズィという名前と、Zガンダムの量産型として試作された機体なのだと聞いた)追いすがる敵を鮮やかに墜としていく手並みを見ても、アムロが乗っている事は確実なように思われる。
「よく、二機だけでここまで来られたな……」
シャアは呟いた。
軟禁されていた基地から脱出した二機を追う機体は多い。これまでに随分の数を墜としてきたとなれば、最初は更に多かったに違いないのだ。
「まあ、あの二人ならば当然か。むしろ追うように命令された敵パイロットに同情すべきだろうな」
そう言っている間にも、視線の少し先で敵機ばかりが墜とされていく。Zがビームサーベルで近くの敵を、アムロの方はライフルで遠くの敵を……コンビネーションも中々のものだ。この二人が戦闘に加われば今後のロンド・ベル隊の戦いは随分楽になると喜ぶ反面、目の前で繰り広げられるアムロとカミーユのコンビネーションに釈然としない気分になる。
しかし、この時点で、シャアはまだ自分の感情の正体には気付いていなかった。
「向かえに来てくれた集団の先頭にいる金色の機体、きっとクワトロ大尉ですよ」
戦闘中にもかかわらず、接触会話でカミーユが話し掛けてきた。カミーユの指摘を待つまでもなくアムロも金色の機体の気配は感じていたし興味のある話題である事も確かだったが、今はそれよりも戦闘中に会話をするだけの余裕があるカミーユにホッとする。何と言ってもカミーユが戦場に出るのは久しぶりで、あのシロッコとの一戦以来なのだから。
「この短い戦闘で勘を取り戻せるなんてたいしたものだ」
接触会話越しに聞こえてくるアムロの声音と台詞に、カミーユはアムロの気遣いを感じて嬉しく思う。
「戦うのは恐いですよ……でも、アムロさんと一緒だから平気です」
それはアムロの気遣いに対するお礼の意味を込めた言葉のつもりだったが、口にしてみると案外本音に近い事が分かった。
(そうか……アムロさんと一緒だから久しぶりの戦場でも落ち着いていられるんだ…)
シロッコを倒すのと引き替えに、半ば廃人同様になってしまった自分。ファの協力もあってようやく精神的な荒廃からは回復したが、もう二度とモビルスーツに乗る事も戦争に関わる事もゴメンだと思っていた自分が、アムロの「ここを脱出して、ロンド・ベル隊に合流しよう」という誘いに乗ったのは、グリプス戦役で初めて出会ったアムロが戦う事に対する恐怖を克服していった様子を思い出したからだ。
(アムロさんを立ち直らせたのは、ベルトーチカさんと……シャア・アズナブル)
自分にとってはクワトロ大尉である人物も、この件に関しては別の名前で呼ぶべきだろうとカミーユは思う。
(僕を立ち直らせてくれたのは、ファとアムロさんって事かな)
カミーユがそんな事を考えている時、またもや接触会話によってアムロの声が聞こえてきた。
「ありがとう」
と。最初、何に対する『ありがとう』なのかさっぱり分からなかったカミーユは、暫くして、それが先程の自分の台詞に対する答えだったのだと気付く。
「アムロさんて……すごい照れ屋なんですね」
カミーユはクスクスと笑ってそう言ったのだった。
▶再録集1
《カテゴリ:再録集@既刊詳細》
■再録内容
【雨宿り・雨上がり】
1st、Z、CCAでそれぞれ雨にまつわるタイミングでシャアとアムロが出会う話
【BEYOND THE TIME】
29才のアムロが1stガンダムの世界にトリップする話です
【0083】
宇宙世紀0083周辺が舞台になっています。シャア×アムロがメインでガトー×コウでもありますが、あくまでもメインはシャアムで主人公はアムロです。かなりアムロ贔屓の内容となっておりますので、83に強い思い入れをお持ちの方には不向きな内容となっております。また83のキャラが多数登場します。83を見てらっしゃらない方にでも読んで頂けるよう努力はしたつもりですが、83を未視聴の方はご注意下さい
■サンプル(雨宿り・雨上がり)
「天気の予定表ぐらい渡してくれたら良いのに!」
今日が雨の予定だと分かっていれば、オープンタイプの車で出かけるような事はしなかったとハンドルを握る少年は忌々しげに呟いた。そもそも『天気の予定』などという概念はコロニーで暮らすスペースノイド独自のものなのだが、既に人類の半数以上がコロニーで暮らすスペースノイドと呼ばれるようになって久しい。天気は予想・予報するモノではなく『予定』通りに人が管理するモノであるのだから、その予定を確認もせずオープンカーで飛び出した少年の方に非があるだろう。
「このままだと風邪ひきそうだ……」
少年はハンドルを握ったままブルリと身体を震わせた。
身に着けている地球連邦軍の制服はすっかりびしょぬれで身体に張り付き、赤茶色の巻き毛からは水滴が滴っている。
〈このまま風邪をひいたら、少しぐらい休ませて貰えるかな…〉
一瞬そんな姑息なことを考えてしまうほど少年の日常は戦いに明け暮れていたが、風邪でベッドに縛り付けられた休みでは面白くない。そして何よりも、自分が怪我や病気で戦線を離脱してしまったら、自分が所属する部隊は敗戦もしくは苦戦を余儀なくされるだろう。それは少年のやや過剰気味な自負心であったかもしれないが、動かし難い事実でもあった。
風邪などひいている場合ではない……と言うよりは、風邪ぐらいでは休めそうにない―――それが現状だ。ならば、健康でいる方が良いに決まっている。
少年は車を走らせながら周囲に視線を走らせた。雨宿りできそうな場所を探すために。しかし、あいにく少年が車を走らせていたのは街中ではなく郊外にある湖の側の街道だ。建物と言えば金持ちの別荘らしきものがポツポツと見えるだけで、飛びこんで身体を暖められそうなホテルどころか、温かい物を飲みながら雨宿り出来そうな喫茶店も見当たらない。
「仕方ないな。あの家の軒下でも借りるか」
少年は目に留まった、やや軒下が大きめの家に車を寄せた。その家に目を留めたのは全くの偶然。特に『何か』を感じたからではなく、他の家に比べ軒下が大きめで雨を凌ぎやすそうだったからに過ぎない。だが、偶然が引き起こした少年――アムロ・レイと二人との出会いは恐らく必然だったのだろう。
「大佐。ドアの外に誰か居ます」
出掛ける支度をしていた少女が、ふと顔を上げて玄関の扉を見た。彼女は見たところアムロと同世代の、まだ少女と呼ぶに相応しい年齢であるのだが、漂わせる雰囲気もその言動も大人びている。勿論それだけなら、見えもしないドアの向こうの様子など口にしたところで誰も信じたりはしないが、彼女は人よりも少しばかり勘が良い。一緒にいた青年はそれを良く知っていたので、少女の言葉を疑うことなく視線を追って玄関の扉に目を向けた。
「玄関に?」
この時間に此処を尋ねてくる予定の者は居ない。青年は訝しげに表情を緊張させると、少女を安全な場所に下がらせ玄関に向かおうとしたが、少女はその相手に向かって首を横に振り、自らが玄関の扉に向かう。
「ララァ?」
「大丈夫です、大佐。嫌な気配は感じません」
敵ではありませんよ、と笑って扉を開けようとするララァを尚も引き留めようとしたが、制止の台詞を口にする前にララァは扉を開けてしまった。
敵ではない―――そう判断して扉を開けたが、まず目に入ったのは連邦軍の制服で、そのことがララァを驚かせた。しかし、そうやって『敵』の制服を目にしても、やはり相手から敵意は感じられず、むしろどこか懐かしい感じすらする。しかもよく見れば、目の前に立っているのは、まだミドルティーンとしか思えない少年だ。
「あ…っ、あの、すみません。軒先が広かったのでちょっと雨宿りを……」
少年は突然扉が開いたにもかかわらず、あまり驚いた様子はなかった。ただ、相手もララァが感じた『何か』を感じたのか、吸い込まれそうに印象的な瞳で見つめてくる。
「綺麗な瞳をしているのね」
クスリと笑ってそう言うと、少年は戸惑った表情で
「そうですか…?」
とだけ答えた。そこへ、部屋の中にいたもう一人の人物もやって来る。
「どうした? ララァ」
「あ、大佐。この少年が軒下で雨宿りしていたみたいなのですけれど……」
ララァは自分と同じぐらいの年頃であろう相手に向かって、自分が『少年』と言ったことで相手の気分を害してしまったかと玄関を振り返ったが、振り返った視線の先には、驚いたのと緊張しているのと、そして何処か不思議そうなのを足して混ぜ合わせたような表情の少年がいるばかりで、ララァの台詞を気にしている様子はない。少年の視線の先にいるのは―――
「お知り合いですか? 大佐」
少年の表情からララァがそう問い掛けると、
「いや…」
という返答が返ってきたものの、こちらもきっぱりと否定してしまうには腑に落ちない様子だ。そのまま沈黙してしまった二人を交互に見やり、会話の切っ掛けを探して視線を泳がせたララァは、柱に掛けられたアンティークなアナログ時計を見て慌てたように口を開く。
「時間ですので、出掛けないと」
言ったものの、ララァはどことなく緊張感を漂わせる二人を置いてこの場を立ち去るのに躊躇いを覚えた。目の前に立つ見知らぬ少年に何故だか興味も惹かれる。
「ああ、そうだな。後のことは適当にやっておくから、ララァは行くといい。遅れたらまた嫌味を言われるぞ?」
「はい、ではお願いします」
相手の心情を察した青年が優しく笑うと、ララァはようやく安心して部屋に準備しておいた荷物を取りに戻った。
「またね」
地球連邦軍の制服を身に着けた見知らぬ少年―――だが、何故か再会する予感を覚えて、ララァは玄関に立ったままの少年に向かってそう声をかける。もしまた出会うとすれば、その時は『敵』でしか有り得ないと分かっていても、ララァはその少年に対する親しみを消す事は出来なかった。
■サンプル(BEYOND THE TIME)
『恐らく戦闘そのものには間に合わない…』
それは分かっていたが、戻らない訳にはいかなかった。ロンド・ベル隊に所属するパイロット達は他の部隊にいるパイロットに比べれば実戦慣れしている方だが、それでもアムロの戦歴とは比べるべくもなく、相手がシャア直属のネオ・ジオン艦隊となれば、ブライトが自分を呼び戻す気持ちが嫌というほど解るからだ。
「サイコミュ受信の調整終了。νガンダムに火を入れる」
νガンダムのコクピットでブライトからの帰投命令を受け取ったアムロは、サイコミュ受信の調整を強引に切り上げ宇宙(そら)へ上がると宣言した。オクトバーを中心とするメカニックマン達は勿論、ロンド・ベルのクルーであるチェーンも当然のように無茶だと止めたが、いつまでも月にいたところでブライトの手助けは出来ない。
「止(や)めてくださいっ! 間に合いはしません」
分かり切った科白で更に引き留めるオクトバーを振り切って、νガンダムは月を発進した。
「知りませんよ」
オクトバーの最後の科白が、調整の終わっていないνガンダムの性能に対するものなのか、それともνガンダムのコクピットに無理矢理補助シートを積み込んでチェーンと二人乗りで飛ぶことに対するものなのかは分からなかったが、それでも律儀にブースターを用意してくれたことにアムロは感謝する。例え地球の六分の一だとしても、ブースターがなければ月の重力を振り切ることは出来ないのだ。
ブースターに乗せたνガンダムが月を飛び立つ瞬間、コクピットにいる二人には加速度による凄まじい重力がかかる。チェーンは一瞬にして意識を失ったらしい。慣れているアムロにしても、普段の戦闘で身体に掛かるのとは比べものにならない重力に、ゆっくりと意識を手放した。
ゆっくりと覚醒する意識が、聞き覚えのない人の声を捉(とら)えた。これはアムロには珍しい事だ。一般にニュータイプと評されるアムロは、自分では世間が言うほど勘が良いとは思っていなかったが、それでも他人の気配には敏感なので、どれほど熟睡していても見知らぬ人間がすぐ側に近づくまで気付かないという事はない。
「気が付いたか」
問い掛けてくる声にやはり聞き覚えはなく、目に映る光景に見覚えもなかった。見覚えはないが、目の前に立っている人物が白衣を着ている事、寝かされていたベッドがスプリングのきいたベッドではなく診察台であった事、そしてわずかに漂う消毒液の匂い―――ここまで条件が揃っていれば、ニュータイプなどでなくても、どういう場所かぐらいは判断出来ようというものだ。
記憶なら辿る必要もない。自分はラー・カイラムのブライトに呼び戻され、月のアナハイム研究所からロンド・ベル隊が展開する戦場へ向かっている筈だった。となれば、考えられる可能性は―――あまり考えたくはないが―――月からの射出後、何らかのトラブルがあって、意識を失ったまま味方に救出されたか、もしくは(更に考えたくない可能性だが)敵の捕虜になったか……。
「取り敢えず身元を照会する。所属と名前を」
白衣の男の問い掛けが、住所ではなく所属を求めるものであるからには、ここは民間の病院ではなく軍関係の医療機関、もしくはどこかの基地内や軍艦内の医務室なのだろう。アムロは名を聞かれて、相手に気付かれない程度に眉を顰めた。地球連邦軍の関係者ならば名前など聞いてこない筈だ。名前など聞かずとも顔を見れば誰か分かる程度には、アムロは自分が有名人である事を自覚している。となれば、自分は味方に救出されたのではなく、敵の捕虜になった可能性の方が高い。当然ながら、うかつに自分の名前を名乗る訳にはいかず黙り込む。そんなアムロに相手はやや苛立ちを込め、しかし一応は医師として心配している様子で再び問い掛けてきた。
「君、聞こえているか? 所属と名前を述べなさい。それとも耳が聞こえないのか?」
戦場では、間近で爆発に巻き込まれたりした場合、たまたま遮蔽物で怪我は免れてもその轟音で一時的に耳が聞こえなくなることもあるし、最前線の経験が少ない人間は精神的なショックで耳が聞こえなくなったり声が出せなくなることもある。そういう患者を扱い慣れているらしい彼は、筆談に切り替えるためメモとボールペンに手を伸ばしたが、ペン先が紙に辿り着く前にアムロは口を開いた。
「耳なら聞こえています」
「ならば先程の質問に答えなさい。君の所属と名前は?」
声を荒げることなく三度も同じ質問を繰り返した男は、なかなか我慢強いと言うべきだろう。だが四度目はない―――これで質問に答えなければ、相手は別の手段で『不審人物』の身元を照会する筈だ。直感的にそう判断したアムロは、それでもまだ悩んでいた。連邦軍の間で有名人であるアムロだが、その点に於いてはネオ・ジオン側にとっても同じなのだ。この医師はたまたま顔を知らないようだが、例え偽名を名乗ったとしても写真などでデータを紹介されてしまえば、すぐに身元は割れてしまう。かと言って、恐らくは敵地であろうこの場所で本名を名乗るのは余りにも間抜けな行為だった。
〔とにかく逃げ出すまでの時間を稼ぐしかない〕
自分はこんな場所で捕まる訳にはいかないのだ。
―――どうしても、シャアの隕石落としを止めなければならないのだから―――
偽名を名乗るなら、戦闘に巻き込まれた民間人を装う方が賢明だろう。
「あの、僕は……」
だが、軍人らしからぬ口調を心がけ、適当な偽名を口にしようとしたアムロは、入室を求める合図と共にその場に現れた人物―――正確を記するならば、その人物の服装を目にして息を呑んだ。
〔何だってっ!?〕
現れた男が身に付けている制服には見覚えがある。それは地球連邦軍のものではなく、ネオ・ジオン軍のものでもなく、今では博物館や記録映像の中でしか見られない一年戦争当時のジオン軍のものだった。
「彼の身元は分かったか?」
声も出ないほど驚くアムロを余所(よそ)に、入ってきた男は医師に向かって問い掛けた。
「いえ、つい先程意識を取り戻したところで、所属と名前を問い質しているのですが―――」
答えようとしないのです、という医師の言葉に
「答えられない理由でもあるのか?」
医師とは違い純粋な軍人であるらしいその男は、アムロを胡散臭げな視線で睨む。だが、アムロの方は偽名を名乗るどころではなかった。
「ここは……何処なんですか?」
尋問されている側がこんな事を聞いて答えて貰えるとは思えなかったが、それでも聞かずにはいられなかった。この疑問が解消されない限り、ここを逃げ出すべきかどうかの判断すら出来ないのだ。
ジオン軍の制服を身に着けた男は、当然のように眉を顰め
「まずは貴様の所属と名前を明らかにしろ」
と問い詰めたが、逆に医師の方は先程からのアムロの態度から何かを勝手に判断したらしく、
「君……もしかして記憶が混乱しているのか? 先程の検査では頭部に打撲の痕などはなかったが」
医師らしい口調で問い掛けてくる。
「頭部に傷もないのに記憶喪失になったりするものなのか?」
「それは可能性がありますよ。人は強い精神的なショックによっても記憶を失うことがありますから……ただ、彼が記憶喪失と決まった訳ではありません。少し混乱しているだけかも―――」
横から口を挟んだ男に丁寧に説明しながら、医師はアムロに視線を向ける。この時には、アムロの中で答えは決まっていた。なんせ、相手の方から恰好の答えを提供してくれたのだ。
「僕は自分が誰なのかも、ここが何処なのかも、何故ここに居るのかも分からないのです」
自分が誰なのかはともかく、ここが何処なのか、何故ここに居るのかが分からないのは本当だった。νガンダムで月を出た後、何らかのトラブルで医療関係の機関に収容されたのだとばかり思っていたが、後から部屋に入ってきた男が身に着けている物が連邦軍でもネオ・ジオン軍でもなく、一年戦争当時のジオンの制服とあっては、本気で記憶喪失になったとでも思いたいぐらいだ。
「いい加減なことを言うなっ!」
軍服を身に着けた男はそう言って疑わしげな視線を向けたが、白衣の男は目を覚ましてからずっと戸惑った様子のアムロの言葉を信じてくれたらしい。
「まあまあ。そう頭ごなしに決めつけるものではありませんよ」
穏やかな、だが医者らしい毅然とした言葉で軍服の男を宥めるとアムロの方に向き直った。
「ここはサイド3のジオン本国だ。君はノーマルスーツを着用しただけの姿で宇宙空間を漂っていたところを、偶然通りがかった艦に拾われたのだよ。その艦が通りかかるのがもう少し遅ければ、おそらく君は死んでいただろう。君が助かったのは奇跡的な偶然と言っても良いぐらいだが、ここで問題になるのは何故君がノーマルスーツ一つで宇宙空間(あんな所)を漂っていたかだ。ジオン公国の情報では、あの辺りで戦闘があった記録も、民間船が行方不明になった報告もなかったのだからね」
そこまで話して一度言葉を切った医師は、ここから先が重要なのだと言いたげな様子で慎重に口を開く。
「つまり、君は連邦軍のスパイだと疑われても仕方のない立場なのだよ」
それは、自分が拾われた状況を聞かされたアムロにとって予想の範囲内の台詞だった。戦闘記録も民間船からの救助要請もない空間に突如ノーマルスーツの人間が現れるなど、普通では有り得ない。考えられる可能性として一番疑われるのは、連邦軍のスパイを乗せた艦が何らかの理由で遭難したか、或いはそのスパイが潜入に失敗したか―――
「確かに僕はスパイと疑われても仕方がないですね。しかも僕はそれに対して言い訳する手段もありませんし……」
ここが正念場―――駆け引きを間違えればスパイとして投獄されることは免れない。
「何でしたら自白剤でも使ってみますか? 記憶喪失の人間に自白剤が効くかどうか分かりませんが」
これは賭だった。虚勢を見破られれば、やはりスパイとして疑われるだけだし、本当に自白剤など使われたら精神科の病院か研究所送りは間違いないだろう。なんせ、この医者の言うことが本当なら、どうやら自分は時間(とき)を超えて十四年前に迷い込んでしまったらしいのだから……
一応アムロには勝算があった。自白剤の使用は南極条約で禁止されているし、目の前の男は意外とまともな医者であるらしいから人体に悪影響のある自白剤を使用する可能性は低い。そして、そのアムロの計算はどうやら当たったようだ。
「いや、私は君の記憶喪失を疑ってはいないよ。ここへ連れ込まれた時の君の意識レベルは薬物などで低下させられていたものではないからね」
「どういう事だ?」
「連邦軍にしてみれば、スパイを送り込むのに意識を失わせ宇宙空間に放り出すというのはあまりに無謀で効率の悪い遣り方ではありませんか? うまく潜り込めそうなジオンの艦に拾われる可能性よりも、ノーマルスーツのエアー切れでスパイが死に至る可能性の方がずっと高いはずです。仮にジオンの艦が通りかかるのを見計らって放り出したのだとしたら、スパイの意識を一時的に失わせる為に薬物などを使用した筈ですが、その痕跡はなかった。第一、この彼が本当にスパイだとしたら、こんな風にいかにも疑ってくれという状況で潜り込んでは来ないでしょう」
「なるほどな」
医師の説明で軍服姿の男も一応納得したらしいが、だからと言って、相手が身元不明の怪しい男である事に変わりはない。
「しかし、このままこの男を解放する訳にもいかないが…」
「それは当然です。彼が何らかのトラブルに巻き込まれてノーマルスーツ一つで宇宙空間に放り出されたのだとしても、ジオンとしてはそのような情報などないのですから、もっと詳しく調べてみる必要があります」
その辺りは医師も甘くなかった。第一、アムロにしてもここが本当に十四年前のジオン公国であるのなら、このまま放り出されても困るのだ。行く当ても帰る手段もないのだから。せめて自分がどのポイントで拾われたのか、その時どんな状況だったのかを知らなければ、元の時空に戻れる手掛かりすらない。
「調べると言ってもな」
ここへ来て軍服の男は溜息をついた。サイド3近くの空域で何らかのトラブルがあったのだとしたら当然調査をするべきなのだろうが、正直な所、今の時期それは些細な問題で自分の管轄でもない。明らかに連邦のスパイであるなら上官と相談の上捕虜として扱うことも出来るが、連邦軍との最終決戦が近づいているこの時期に、身元不明の男一人にいつまでも関わっている訳にはいかないのが現状なのだ。
「記憶喪失と言うからには身元引受人なども期待出来ないだろうし、いったいどうしたものか……」
明らかに医師に向かって『暫くここで預かって欲しい』と言いたげな視線を送る軍服の男に、だが医師の方も首を横に振った。
「戦闘が続いていて医師の数は不足しているのです。ここの入院患者数も飽和状態に近い。記憶がないだけの健康な人間を預かる余裕などありません」
アムロの処遇について、お互い責任を相手に押しつけようとしていた所に、当のアムロが声を掛けた。
「宇宙空間で僕を拾ってくださった方に会わせて貰えませんか?」
二人が自分の身柄を押しつけあっているらしいと察したアムロの判断は迅速だった。このままサイド3に閉じこめられる訳にはいかないのだから、少しでも宇宙(そら)に出られる可能性を探さなければならない。そして、有り難い事にこのアムロの提案に二人は飛びついた。自分が責任を負いたくないのなら、拾ってきた奴に責任を押しつければ良い―――そう考えたのだ。幸いな事に、この男を拾ってきた人物はザビ家長男のお気に入りらしいという噂だ。宇宙で拾った正体不明の捕虜の一人や二人、どうとでも処理してくれるだろう。
「待っていろ。すぐ大尉に連絡をつける」
そうと決まれば行動は迅速で、軍服の男は直接その人物を呼びに行くつもりなのか部屋を出ていった。それ程待たされることなく医務室に現れた第三の男は、先に来た軍人より少し上ぐらいの年齢だろうか。蓄えた髭がよく似合う理知的で落ち着いた風貌に、軍人らしからぬ穏やかな表情―――先程の男よりも、明らかに階級が上らしい軍服だったが、言葉遣いはずっと丁寧だった。
「事情は聞きました。私が拾ってきた人物は記憶喪失だとか?」
医師に向かって穏やかな口調で問い掛ける。
「そうなのです。彼は『どうしてここにいるのか』という質問に答えられないどころか、ここがどこなのかも、自分が誰なのかすら、答えられないのです」
「その彼が記憶喪失のフリをしている可能性は?」
「それは無いとは言えませんが、少なくとも彼は連邦のスパイではないと思います」
「どうして、そう思われるのでしょう?」
問われて医師は少し考え、再び口を開く。
「根拠はありません。お笑いになるかもしれませんが、そう感じたのです」
「医師の勘……というやつですか?」
からかわれたと思ったのか、少しばかり頬を紅潮させてムッとしながらも、更に話しを続ける。
「そこのベッドで目を覚ました時の彼の戸惑った表情やジオンの制服を見た時の驚いた表情、ここは何処かと聞いた時の困惑した表情。どれを取っても演技とは思えませんでした。彼がスパイなら、少なくとも自分が潜入する先がどこかぐらいは知っている筈ですから」
それまで医師と会話をしていた男は、ここで初めてアムロに視線を向けた。医師の観察眼と自分の勘を信じた男は小さく頷く。
「なるほど。彼はスパイではない……私もそう思います」
男は木星にいた頃から勘の良さには自信があった。つい先程ギレンにもそれを指摘され『君はニュータイプだ』などと自分にはとても信じられない話しを聞かされたばかりだ。
「シャリア・ブルだ」
名乗られて反射的に自分の名前を口に仕掛けたアムロは、慌ててそれを飲み込む。
「分かっている。君は自分の名前も思い出せないのだろうが、名無しでは不便だな」
どう言ったものかと戸惑うアムロに助け船を出したのもシャリア・ブルと名乗った男で、そのシャリア・ブルはアムロの事をどう呼べばいいか考えている様子だったが、結局決められなかったのか
「君はどう呼んで欲しい?」
と逆に問い掛けてきた。これにはアムロも悩んだが、ふと視線をやった先、アムロの診断書らしき物にサインをしている医師のペン先を見て、ゆっくりと口を開いた。
「ではアムロと呼んで下さい」
シャリア・ブルもこの意見にすぐ納得をする。
「なるほど。それも良いかもしれないな」
「そんな安易な決め方で良いのですか?」
苦笑したのは医師の方で、彼のファミリーネームは『アムロ』だったのだ。
この一件で場が少しばかり和む。
「それで、彼―――アムロ君は貴方の手元で治療を続けて頂けるのでしょうか?」
改めてシャリア・ブルが問い掛けると、医師は難しい表情で肩を竦めた。
「あいにく記憶喪失というやつはやっかいでして、病院で治療を続けたら記憶が戻るというものではありません。むしろ彼を発見した場所に連れて行ったり、その時の状況を話してやったりする方が記憶を刺激する事もあります」
暗に『出来ればそちらで引き取って欲しい』と言いたげな相手に「なるほど」と頷いたシャリア・ブルは改めてアムロに問い掛ける。
「私と一緒に来るか?」
アムロとしては願ってもない展開だ。
「お邪魔でなければ」
「私はこれから戦場に向かわなければならないが、それでも?」
この台詞でアムロはシャリア・ブルに好感を持った。
「よろしくお願いします」
アムロが頭を下げたところで話しが決まり、厄介払いに成功した医師は上機嫌で診断書を書き上げる。
「一通り検査しましたが、特に外傷などは見当たりませんでしたので、今すぐ彼を連れて行って下さってかまいませんよ」
そんな台詞に追い立てられるようにベッドから立ち上がったアムロは、シャリア・ブルの後について医務室を後にした。
■サンプル(0083)
一年戦争が終結したのは宇宙世紀0080の年明け。
それから三年、宇宙世紀0083の年明けはこれといった事件もなく穏やかに始まった。
三年前の年明けを戦場で迎えたホワイトベースのクルーの大半は、一年戦争が終わって間もなく軍を去り新しい人生を歩み出したが、アムロは軍を辞める事を許されなかった。
『勿論、君には軍を辞める権利がある。しかし、君まで軍を辞めるとなると、連邦軍の最高機密(ホワイトベースやガンダムの情報)を知っている者全員の処遇を考え直さなければならなくなるな』
当時まだ十六歳だったアムロでもその言葉の指し示す意味は解った。そして、まだ十六歳で、頼れる者もなく唯一相談出来そうな相手と言えばホワイトベースの仲間ぐらいしか居なかったアムロにとって、その言葉は『脅迫』として最高の効力があったのだ。
三年が経った今、情況は変わっている。あの頃の脅し文句も既に随分効力を失っていて、今ならば無理をすれば軍を辞める事も逃げ出す事も不可能ではないかもしれない。現に、当時『アムロが軍を辞められなかった理由』を知っている仲間達が、密かに脱走の手引きをしようと申し出てくれる事もある。
しかし、運命を受け入れたと言えば聞こえは良いが、重力の鎖を振り切る気力を無くし宇宙(そら)へ戻る事を諦めるのに、三年は充分すぎる長さだった。二十歳を前に既に人生さえ諦めかけていたアムロの日々は、軍から与えられた閑職をこなすことと、軍の監視下で羽目を外しすぎない程度に遊ぶことぐらい。酒の味もとっくに覚えた。
意外とアルコールに耐性のある体質のようで、何もかも忘れて自分を失うほど酔おうと思ったら浴びる程飲まなければならない。年齢に不相応な地位を与えられているため経済的には何ら問題はないが、一人で飲む酒が美味しい筈もなく、アルコールの力を借りて現実逃避する事にも厭きた。それでも、時折無性に酒を飲んで何も考えず眠ってしまいたくなる。
その日もそんな気分の日だった。
「アムロ・レイともあろう者が、酒を飲んでふて寝とはな」
掛けられた声音の冷たさと、辺りの気温が二、三度下がったのではないかと思われる気配にアムロの意識は急速に覚醒した。酒を飲みながらいつの間にか眠ってしまったリビングのソファの脇に立ち、一人の男が自分を見下ろしている。薄明かりの逆光になって顔は見えなかったが、声には聞き覚えがあった。何より、その気配は間違えようがない。
「―――――シャ…ア………?」
気配は間違えようがないが、こんな場所に居るはずのない相手に向かって、アムロは恐ろしく無防備に呼び掛けた。夢でも見ているのではないだろうかと言いたげに。
「あの時『同志になれ』と言った私の誘いを拒否したのは、こんな生き方をするためだったのか?」
アムロの戸惑いを余所に、シャアの言葉は攻撃的だった。そして、アムロにとっては一番触れられたくない部分でもある。例え夢だったとしても、今の自分をシャアに批判されるのは何よりの屈辱だった。
「こんな……生活―――したくてしているワケじゃない」
独り言に近いアムロの呟きは、しっかりシャアの耳に届いたようだ。
「ならば抜け出せ。君にはその力がある筈だ」
シャアの言葉にアムロの背が強ばる。そんな力など無いと泣けばいいのか、その力のためにこの有様だと笑えばいいのか、アムロには分からなかった。
「簡単に言ってくれる」
結局、口から出たのは気力の欠片も感じられないそんな台詞。
「簡単だとも。現に私は監視の目をかいくぐってここに居る。勿論、抜け出すルートも確保してある」
暗に『今度こそ一緒に来い』と誘うシャアの言葉は、今のアムロにとって重すぎた。
「なら、さっさと出て行けよ。お前の顔なんか見たくないんだ」
自分は一緒になんか行かない―――行けない。軍からの脅迫と地球の重力―――二重の鎖に縛られたアムロは、ソファから立ち上がる事もなく、全てを拒否するかのようにくるりとシャアに背を向ける。アムロの『拒否』をシャアも感じ取ったのだろう。鋭角的に眉を跳ね上げ、その背を睨み付けた。
「私は認めないぞ、アムロ。私が唯一ライバルと認めた男のこんな生き方は―――」
アムロの腕を掴み無理遣り方向を転換させたのは、視線を合わせてもう一度話しをしたかっただけ。そもそもシャアがここを訪れたのも、純粋にアムロを宇宙(そら)へ上げることが目的だった。
しかし、腕を取られた途端ビクリと身体を竦め、そのくせこちらを向いた視線は相手を射殺さんばかりの鋭さでこちらを睨み付ける。そんなアムロの怯えとプライドの高さが窺える勝ち気さの両方を湛えたその瞳に見据えられた瞬間、シャアの背中にゾクリと快感が走った。怯える子供のようなアムロを優しく慰めてやりたいという想いと、その勝ち気なプライドを粉々に砕いて相手を自分の前に跪かせてやりたいという凶暴な支配欲―――相反するその感情を有り体に一言で表現するなら、シャアはこの時初めてアムロに欲情したのだ。男、しかもよりによってあのアムロ=レイにそんな感情を抱いた自分に苦笑したものの、シャアは思慮や遠慮などという言葉はさっさと遠くの棚に放り上げた。男を抱いた経験はないが、迷うことなくアムロの身体にのし掛かる。戸惑うアムロを余所にその項に唇を寄せ、きつく吸い上げながらボタンを引き千切らんばかりの勢いでシャツをはだけさせると、さすがに驚いた様子でアムロが抵抗を始めた。
▶0087 vol.6
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
アウドムラはヒッコリーに向っていた。ヒッコリーにあるシャトルで、帰り損ねたエゥーゴのパイロットを宇宙(そら)へ帰すのが第一の目的だが、ジャブローで救出したカイから『ヒッコリーに行けばティターンズの拠点に関する情報が手に入る』という話しを聞いたためでもある。しかしながら、そのカイはといえば『偽名を名乗っているシャアと同席するのは性に合わない』などと言い残して姿をくらましてしまったらしい。
「ヒッコリーまで何事もないと良いんだけどな」
ブリッジに姿を見せたクワトロとアムロにハヤトが声を掛ける。
「ハヤト艦長には申し訳ないが、それは無理だと思うぞ」
応じたのはクワトロだ。
「何で分かるんです?」
ハヤトは不思議そうな表情で軽く首を捻るが
「私ではない。アムロがそう言っている」
それだけで納得した様子で肩を竦めた。
「さっきの新型がまた来るのか?」
「少し違う気がする。どちらかと言うとニュータイプに近い感覚だ」
応えたアムロは
「そんな気がするだけだからな」
そう付け加えたが、アムロの勘を疑うつもりはないのだろう。
「厄介な敵ということか」
渋い表情のハヤトは迎撃体制の指示を出す。迎撃体制が整ったまさにそのタイミングで、艦内に敵襲を告げるアラートが鳴り響いた。
「敵のパイロット、女……でした?」
戦闘が終わってすぐ、カミーユが漏らした言葉は当たっていた。アウドムラを強襲してきたのは、変形モビルアーマーのギャプラン。操っていたのは強化人間の女性パイロット、ロザミア・バダム。他にも数機モビルスーツがいたが、強敵と呼べるのはその一機だけだ。
とは言え、その一機も迎撃準備を整えていたアウドムラの敵ではなかった。
「飛行タイプに変形出来るモビルアーマーを相手に、ドダイでは不利かと思ったが、さすがだな」
ブリッジでモビルスーツの戦いぶりを見ていたハヤトは誰へともなく賞賛の言葉を贈ったが、
「アムロの予感もたまには外れるのだな」
クワトロは、出撃前に『嫌な予感がする』と言ったアムロを揶揄(からか)う。悪い予感など外れた方が良いに決まっているのだから、口調は軽く表情も笑み混じりだ。
しかし、ブリッジを始めアウドムラ艦内が楽勝ムードで明るい雰囲気の中、アムロの表情は冴えない。
「でも、敵の女パイロット、今まで戦った敵とはどこか違いましたよ」
アムロの様子に気付いたという訳でもないのだろうが、カミーユが戦闘中に感じた違和感を口にすれば、
「ああ、あれは恐らく強化人間だろう」
戦闘中の敵を思い出してクワトロが応えた。
「強化人間?」
聞きなれない言葉にカミーユは首を捻る。
「薬やマインドコントロールで作り出されたニュータイプもどきのことさ」
そう教えてくれたのはハヤトで、口調にはどこか棘があった。
「まあ、そういう意味ではアムロの勘はやっぱり当たってたってところだな」
「そうだと良いんだけど……」
「何か気になるのか?」
煮え切らない様子のアムロにハヤトが問う。
「何となく『コレじゃない』って気がするんだけど、よく分からない」
「おいおい、随分曖昧だな」
「そうさ。ニュータイプなんてそんな便利なものじゃないって、いつも言ってるだろう?」
気安い雰囲気で会話を進めるアムロとハヤトを、カミーユはどこか羨ましそうに、クワトロは若干―――ではなく大いに嫉妬交じりの視線で眺めていた。
▶0087 vol.5
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
宇宙(そら)から地球へと降下してきたエゥーゴのメンバーは、ジャブローの基地でレコアとカイを救出した後、ギリギリのタイミングでジャブローを脱出した。もはや見捨てることが決まっていた基地をエゥーゴに対する罠として使ったのだろうが、未だ味方も残っている基地を核で爆発させるなど、正気の作戦とは思えない。
「コロニーに毒ガスを注入して民間人を丸ごと虐殺するような奴らだ。基地に残っている味方なんて『多少の犠牲』程度にしか思っていないんだろう」
百式に急遽取り付けたサブシートで眉を顰め、苦々しい口調で呟いたアムロに、同意してシャアも頷く。ただ、シャアとしてはアムロのように素直に憤ってばかりもいられなかった。アムロの口から30番地事件のことが語られると、どう反応したものか迷ってしまう。
そんなシャアの戸惑いに気付いたのだろう。
「そんなにいつまでも気を使ってくれなくて大丈夫だって」
アムロは苦笑して肩を竦めた。
「僕は貴方が思っているほどお人好しでも繊細でもないぞ」
「さて、それはどうかな。繊細かどうかはともかく、お人好し度はかなりのものだと思うが?」
「だから、違うって」
「いいや、お人好しだ。そこにつけ込んで毎回君を押し倒している私が言うんだから、間違いない」
揶揄(からか)うような、だがどこか真剣な口調でシャアが言う。
「それ、貴方が言うなって感じだけど……」
二人きりのコクピット、しかもアウドムラの格納庫に収納されている安心感も手伝って、少々気の緩んだ会話になってきたが、アムロは構わず続ける。
「やはり貴方間違ってるぞ。僕が押し倒される側に甘んじているのは、何もお人好しだからじゃない」
「え……?」
微妙に視線をそらせ、よく見なければ分からない程度に頬を赤らめたアムロの顔を覗き込んだ。
「アムロ。今の話しを詳しく―――」
アムロの両肩に手を置き、その身体を抱き寄せんばかりのシャアの勢いを止めたのは、
『正体不明の機体が近づいてきます』
というアウドムラクルーの言葉だった。
いい所で邪魔をされたシャアが思わず舌打ちをするが、そこはさすがに彼である。すぐに気持ちを切り替え
「迎撃するか」
言うと同時にライフルを構えた。隣のアポリー機も倣ったが、それをアムロが止める。
「いや、待て。あれは味方だ」
『カラバのハヤト・コバヤシだそうです』
アウドムラのクルーがアムロの言葉を肯定したが、当のアムロはギクリと身体を強張らせた。
「ハヤトだって?」
ジャブローからの脱出騒ぎで忘れかけていたが、カミーユが操縦するMKUの手の中にはカイがいる。アムロとしてはホワイト・ベースの仲間との再会を喜び懐かしむどころではない。
アムロ・レイが事故を起こして意識不明の重体という情報が流れてから、カイからもハヤトからも相次いでシャイアンの屋敷に問合せがあった(とガトーが言っていた)。ガトーとコウには、外からの問合せに対しては例外なく対応するよう頼んであったから、ホワイト・ベースの元クルーだと名乗る二人に応対したガトーは事務的に返答したが、一応アムロには二人から問い合わせがあったことを連絡してきてくれたのだ。
「その時、すぐに僕から二人に連絡しておけば良かったんだろうけど…」
「カイ・シデンとハヤト・コバヤシか?」
どこか面白がっている風なシャアの口調が少々気に触ったが、それよりもシャアが二人のフルネームを知っていることに驚く。
「ホワイト・ベースのことは調べられる限り調べたから、メインクルーの名前ぐらいは把握しているさ。アルテイシアのこともあったし、何より君に興味があったからな。アムロ・レイの経歴なら年表が書けるくらい詳しいぞ」
そう言ってシャアが語りだした『アムロ・レイの経歴』はアムロ自身すら「そう言われれば、そんなこともあったな」というようなことまで含まれていて、アムロを唖然とさせる。
「……そんなことまでよく調べたな」
「ほとんどはマスコミからの情報だぞ。それに私が独自に調べた情報を足して、アムロファイルを作ってある」
一歩間違えれば―――いや、既にもう立派なストーカー発言だが、嫌な気はしなかった。それに、自分も(シャアほどではないが)シャアのことは出来る限り調べたのだから、お互い様というやつだ。だから、シャアに知られるのは構わないのだが―――
「マスコミは僕のプライベートをどこまで報じたんだ?」
今更ながら気になる。
「一年戦争終結直後は、それは凄かったぞ。見なかったのか?」
逆にそう問われても、その頃のアムロは間違ったニュータイプ像ばかりが報じられる中、その誤解を解くことに必死で(結局誤解を解くことはほとんど出来なかったが)自分のプライベートがどのように報じられているかなんて興味も関心もなかったのだ。素直にそう口にすれば、
「今度、私のアムロファイルを見せてやろう。中には間違った報道も沢山あっただろうから、訂正してくれると助かる」
冗談交じりの口調でシャアが言う。
「間違った報道ね。例えば?」
「そうだな。実はアムロ・レイは五歳の時にテスト飛行で始めてガンダムに乗った……とか」
「それは酷いな。僕が五歳の頃なんて、まだガンダムどころか連邦軍ではモビルスーツの開発すら始まっていない」
ガンダムのパイロットはエスパーだった―――なんて見出しの記事は沢山見たが、歴史的事実を無視した捏造記事には呆れればいいのか笑えばいいのか分からない。
「貴方が持ってるファイルの中にいるアムロ・レイは僕とは別人かもしれないぞ」
苦笑交じりのアムロの台詞に、
「だから、現在進行でファイルの内容を訂正しているところさ」
シャアは笑って答えたのだった。
▶0087 vol.4
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
アーガマでブライトと思わぬ再会を果たしたアムロだが、そのブライトとアムロが落ち着いて話しを出来る機会はすぐには訪れなかった。テンプテーションの艦長としての任務が残っている上に、今後の身の振り方についてアーガマのメインクルーやエゥーゴ上層部と何かと話しをしなければならないブライトは多忙であり、アムロはアムロで正体がバレてしまったことについて各方面にフォローをしなければならなくなったからだ。最優先でフォローしなければならない相手と話すことが出来たのは、テンプテーションの救出から半日近くが経ってからだった。カミーユと話をするタイミングを窺いつつデッキでテンプテーションの解体や出撃したモビルスーツのメンテナンスをしていたアムロに、カミーユの方から近づいて来たのである。
「今いいですか?」
カミーユが声を掛けてきた時、アムロの手には工具が握られていたが「こっちはもういいから、行ってやれよ」と言ってくれたアストナージに後を任せてデッキを後にした。どこで話しをしようかと問うアムロに、最初からそのつもりだったのか迷うことなく
「僕の部屋で」
とカミーユが応じる。
「メカニックの人達は態度変えてないんですね」
部屋に着くまで沈黙を覚悟していた(むしろ部屋についてからカミーユにどう話しを切り出そうかと思案していた)アムロは、デッキを出てすぐ口を開いたカミーユに驚き、同時に安堵した。カミーユは思ったよりずっと落ち着いているようだ。
「最初は妙な敬語を使われたり余所余所しい態度を取られたりしたけど、止めてくれと頼み込んだんだ」
一年戦争の英雄であり大尉という階級にあるアムロに対して、デッキクルーも今後の接し方を迷っていたが、これまで通り接して欲しいとのアムロの言葉を案外すんなりと受け入れてくれた。
「英雄だ大尉だって言っても、そんな貫禄がないからね僕には」
おどけて付け加えれば、
「確かに。僕もすっかり騙されました」
カミーユが苦笑を返す。『騙された』という台詞にアムロはドキリとしたが、カミーユの声音は案外軟らかかった。だが、それっきり黙りこんでしまったカミーユから感情を窺うことは出来ない。シャアが危惧しているほど、アムロとカミーユの間にニュータイプ同士の共鳴や共感が成り立つ訳ではないのだ。そもそも、ああいうことは『ここぞ』という場面で発揮されるものであって、ニュータイプ同士なら常に言葉無しでコミュニケーションが成り立つことなど有り得ず、今も口調や表情、態度から思ったよりずっと落ち着いていると感じ取るのがせいぜいである。
「今からする僕の話しをアムロ・レイではなく、仲良くしてくれた友人のディーとして聞いて欲しいんです」
部屋に入って、最初に言葉を発したのもカミーユの方だった。その方が本音をぶつけてくれるだろう。アムロにとってもカミーユの提案は願ったり叶ったりだ。
アムロの気持ちを汲み取ったのか、カミーユは返事を待つことなく話し始めた。
「グリーンオアシスにいた頃、僕はアムロ・レイやブライト艦長に憧れてた」
一年戦争の逸話の数々に心を躍らせ、ホワイト・ベースのクルーに憧れ、アングラで発行された本や雑誌まで探して読み漁った。あの日も、ブライト艦長のテンプテーションが入港してくると聞いて宇宙港まで行ったところを、エゥーゴのMKU強奪作戦に巻き込まれたのだ。
「でもアーガマに乗ってからは、何かと言えばアムロ・レイを引き合いに出されて比べられて、アムロ・レイのことなんか大嫌いになったんだ」
みんながアムロ・レイと同じ才能があるのだからパイロットになってガンダムに乗るべきだ、と口を揃えて言う。言われるたびに反発して、どんどんアムロ・レイが嫌いになっていって、逆に、嫌なら乗る必要は無いと言ってくれたディーに対する信頼と友愛が深まっていった。だから、そのディーが実はアムロ・レイだったと知らされたとき、騙されていたことが悔しくて悲しくて―――
「でも、どこかで納得もしてた」
きっと心のどこかで、ディーは他の人とどこか違うと感じていたのだろう。
「ディーが僕に、ガンダムの乗らなくても良いって言って
くれたのは、僕にはアムロ・レイのようにガンダムを乗りこなすのは無理だと思ったから?」
「それは違う」
カミーユの口から『大嫌いになった』と言われたときにも表情すら変えることなく話しの続きを促したアムロが、初めて口を挟んだ。
「むしろ逆だよ。カミーユなら僕以上にガンダムを乗りこなしてしまうんじゃないかと思ったから、自分の意思でないなら乗らない方が良いと思った。カミーユには僕のような思いをして欲しくなかったんだ」
アムロの言う『僕のように』の真意は、今のカミーユには理解出来なかった。それでも、アムロがカミーユのことを思って言ってくれていたのだということだけは解かった。
「さっきも言った通り、いろんな本や雑誌であなたのことを読みましたけど、アムロ・レイがこんなにお人好しの世話焼きだなんて、どこにも書いてありませんでしたよ」
自分の中で吹っ切れたのか、表情を軟らかくしたカミーユに、
「それはそうだろう。お人好しの世話焼きなんて初めて言われた」
苦笑を浮かべたアムロが肩を竦めて応じる。
「そうですか? 僕を特別扱いしてくれてるって自惚れたいところですが、アムロさんの『特別』は僕じゃないですよね」
ディーがアムロ・レイだと知った時、カミーユはアーガマで囁かれているあの噂は真実なのだと確信した。そして、その噂の主がアムロにとって特別なのは当然だとも思った。
カミーユの指摘に一瞬ドキリとしたアムロはうろたえたかのように視線を扉の方へと外したが、カミーユが言う
『特別』にそういう意味は含まれていないようだ。
「……確かに、あの人は特別だね」
そう認めながらも、どう特別なのか言及されることは避けたいアムロは、カミーユに視線を戻しながら速やかに話題を軌道修正する。
「四年前にある人から、自分にガンダムを乗りこなすのは無理なんじゃないか、自分は乗らない方が良いんじゃないかと相談されたことがある」
それはカミーユの気を惹くに充分の話題だった。
「その人も僕みたいな子供だったんですか? やっぱりその時も、嫌なら乗らない方がいいって言ったんですか?」
矢継ぎ早に問い掛ける。
「いや。その時は、君がガンダムに乗るべきだと言ったよ」
「そうなんですか?」
「彼はカミーユのような未成年の民間人じゃなく訓練を
受けた軍人だったし、なにより彼の本心はガンダムに乗りたがっていたからね」
「ああ、それは……当然ですよね。ガンダムはパイロットなら誰だって憧れる機体だし」
納得した様子のカミーユに、アムロは続く言葉を飲み込んだ。倒したい相手がいる―――コウがそう言ったからこそ、あの時アムロはコウの背中を押したのだが、今のカミーユにそれを言っても仕方がない。
「カミーユも、もうガンダムを……アーガマを降りる気はなさそうだね」
人が戦う理由はそれぞれで、カミーユが戦うことを決めた理由もカミーユだけのものだ。
「戦争は好きじゃないですけど、アーガマの人達には良くしてもらったし、ティターンズの遣り方を知った今、奴らを許せないって」
カミーユが気持ちを決めたのなら、これ以上彼を止めることは出来ないし、止める気も無かった。
「なら最後にもう一度だけ、僕の言うことをアムロ・レイの言葉じゃなく、カミーユの友達のディーの言葉として聞いてくれるか?」
神妙な表情で頷くカミーユにアムロが言う。
「この先、戦いを続けていけば辛いことが沢山あると思う。
その時は、一人で思い悩まないで相談して欲しい。アーガマのクルーの誰かとか、友達のディーとか……アムロ・レイにでも」
▶0087 vol.3
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
グラナダでの戦闘でカミーユはますますニュータイプ能力とパイロットとしての適性を示して見せた。旗艦(アーガマ)を守っていたエマ・シーンの危機をいち早く察し、エマ(リック・ディアス)と旗艦(アーガマ)を救ったのだ。
そして、正式なアーガマのクルーになることは拒否していたカミーユ自身も、エマを助けたことで何か吹っ切れたのだろう。パイロットとして扱われることを受け入れ、褒められれば満更でもない反応を見せる。
それならそれで良いとアムロは思った。カミーユがそう決断し覚悟を決めたのなら。ただ、それならそれで、このままではいけないとも思った。
宇宙世紀0087.05.02。カミーユが初めてガンダムMKUに乗ってから、ちょうど二ヶ月が経っていた。
「カミーユにはきちんと名前を名乗った方が良いと思わないか?」
ふいの問い掛けにシャアはそれまでの動きを止め、怪訝な表情(かお)で首を捻る。その台詞は形こそ疑問系であったが、既にアムロの中では気持ちが固まっているように聞こえたからだ。
「それは君の? それとも私の方か?」
少々意地の悪い口調になったと自覚はあった。アムロがカミーユを構う理由は理解出来るが、理性で理解出来ることと感情が納得出来るかどうかは別問題、とはよく言ったものである。
「僕のに決まっているだろう。貴方が本名を名乗ってどうする」
相手の口調に感化されたのか、アムロの言い方にも棘があった。一瞬、二人の間に緊張を孕んだ空気が流れたが、シャアもアムロも今ここで相手と喧嘩をしたい訳ではない。
「そうだな。私の場合、本名より偽名を名乗っていた時間の方が長いからな」
先に折れたシャアが冗談めかした口調で言えば、
「四つも名前を持っていると大変だな」
アムロも笑いながら揶揄する。
顔を見合わせて笑った後、シャアは表情を改めた。アムロが名前を名乗った方が良いと考えた切っ掛けに思い至ったのだ。
「エマ・シーンのことを気にしているのか?」
エマの口から『シャイアンでアムロ・レイに会ったことがある』と聞いてから、アムロは極力エマと顔を合わせないようにしていたが、同じ艦のパイロットとメカニックマンでは避けるのにも限度がある。
「彼女は勘も記憶力も良い。こうやって変装していても、記憶の中の『アムロ・レイ』とメカニックマンのディーを結びつけるのは時間の問題だろう」
一応眼鏡とウィッグで変装してはいるものの、アムロとしてはエマがいつ自分の本名に気付くか気が気ではない。
「バレたらバレた時のことだ。その時に対処すれば良い」
シャアの言葉にも首を横に振る。
「他のクルーには、ね。だけどカミーユにはその前に僕の口からきちんと伝えておきたいんだ」
「やはり、カミーユは特別……か」
先程のように棘はないが多少なりとも苦み成分を含んだ呟きに続けて、シャアはアムロに問い掛けた。
「確かにアムロが言う通り、今は兄のように君を慕っているだけだろう。だが、君が『アムロ・レイ』だと知ったらカミーユの気持ちは変わると思わないか?」
「それは変わるだろうな」
断言するように応えたアムロは、シャアが口を開くより前に続ける。
「だけど、貴方が想像しているようにじゃない。むしろ反対方向に変わると思うぞ」
アムロとララァの出逢い(ニュータイプ同士の共感)を見せつけられたシャアは、メカニックマンのディーがアムロ・レイだと知った時カミーユがアムロに対して『特別な感情』を抱くのではないかと危惧しているらしいが、アムロに言わせればそれはシャアの思い過ごしだ。
カミーユは『メカニックマンのディー』を慕っている。周囲の人間が何かにつけてカミーユをアムロ・レイと比べ、ニュータイプを便利で優秀なマシンのように扱う中で、ディーは「無理してパイロットになることはない」と、「ニュータイプは戦うための道具なんかじゃない」と言われたことが嬉しかったからだ。
だが、そのディーこそがカミーユが比べられるのを嫌がっているアムロ・レイだと知ったら―――
「カミーユは裏切られたと思うだろう。傷付いて……恐らく僕を嫌いになる」
視線を伏せたアムロの言葉を聞いて、シャアは問い詰めるように言う。
「本名がバレる前に自分からカミーユに名乗ろうとするのは、どこまでもカミーユのためだけか?」
痛いところを突かれてアムロは一瞬息を詰めたものの、すぐに諦めた様子で肩を竦めた。自分がシャアのことなら大抵のことは分かるように、相手にも自分のことは大概見抜かれてしまうらしい。
「カミーユを傷つけたくないのが七割、これは本心だぞ」
残りの三割については追求するなと無言で訴えたアムロだったが、シャアは許してくれそうになかった。同じく無言で、視線だけで続きを促され仕方なく白状する。
「エゥーゴの一クルーとして、パイロットとして安定してきたカミーユのコンディションを乱したくないという打算が二割。後の一割は―――」
自分でアムロを追求したにもかかわらず、続きは聞きたくないとシャアは思った。
「慕ってくれているカミーユに嫌われるのは辛い……個人的なエゴだな、これは」
ほぼ予想通りの答えを耳にして、心の奥がズキリと痛む。それが嫉妬であることは自覚していた。アムロはああ言ったが、シャアにとってニュータイプ同士の出逢いはトラウマに近い。
シャアは思い出したように、アムロの中に埋めていた指でその内部をきつめに抉った。
「―――っ……」
突然与えられた刺激にアムロは息を詰める。だが、抵抗や苦情の言葉を口は、シャアから先制攻撃を食らって不発に終わった。
「抗議は聞かないぞ。そもそも事の途中で突然会話を持ち掛けたアムロが悪い」
確かにシャアの言う通りだ。
キスをしながら縺れるようにしてベッドに倒れ込み互いの服を脱がせ合って、その身体に触れた。高まった熱で理性が溶け出す頃合いを見計らって、シャアはアムロの後孔に指を差し入れ、そこを解す。初めての時は屈辱と恐怖と痛みに悲鳴を上げたアムロの身体も、回数を重ねて慣れてきたのだろう。最近では指一本からでも快楽を拾い出すようになった後孔は、シャアの指が内部の敏感な場所に触れるたび無意識に指を締め付けた。と同時に小さな声を零したアムロは、照れくさそうに目元を赤く染めて視線を逸らせる。
アムロの反応に気を良くしたシャアも、自身の下半身に熱が集まるのを自覚した。一度指を引き抜き、更に広げるため、今度は二本の指を差し込む。身体の力を抜くためか、アムロが軽く息を吐いた―――そんな時、突然アムロが先程の会話を切り出したのである。
▶0087 vol.2
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
アーガマでクワトロ・バジーナ、ドゥエ・ブルーノと名乗っている二人は、二人きりになると別の名を呼び合う。互いに呼び合うその名前の一方は本名だが、もう一方はそれすらも偽名だ。クワトロという偽名の通りその名前は彼の四つ目の名前で、彼の本名がエゥーゴにとって意味を持つのはもう少し先の話である。
戦艦という限られた、しかも至る所にカメラが仕掛けられた空間の中で、二人きりになれる場所や時間は限られている。確実に二人きりになれるのは、一方のプライベートルームにもう一方が訪れる時。
その夜も、シャアはアムロの部屋を訪れていた。
「地球に人を降ろす?」
アムロの言葉にシャアは頷いて見せる。
「ブレックス准将の意向でな。ジャブローの様子を探らせたいらしい」
シャアはこの作戦にはあまり乗り気ではないようだ。まあ、それも当然だろう。現在のジャブローはティターンズの本拠地なのだ。そんなところにエゥーゴの人間を送り込むとなれば、危険な任務になるのは明白である。
「……そう言うことなら、僕が行こうか?」
アムロがそう申し出たのは、何も自分が進んで危険な任務を引き受けようという英雄的思考によるものではなく、一年戦争中やその後を含めジャブローには何度か行ったことがあるため、他のクルーが行くよりは危険が少ないと思ったからだ。一応、人より多少勘が働く自負もある。
だが、アムロの申し出はシャアによってすぐさま否定された。
「馬鹿なことを言うな」
「どうして、馬鹿なことなんだ? ジャブローなら何度か行ったことが―――」
「この作戦の人選は既に終わっている」
その人選にも賛成出来ないが、アムロをジャブローにやる気は微塵もない。シャアの口調からは、彼のそんな気持ちが伝わってきた。
「その人選で選ばれた人物と僕と、作戦の成功率はどちらが高いと思うんだ?」
シャアの顔を見つめながら、アムロが静かに口を開く。
「それは、君だろうな」
そこはシャアも素直に認めた。
「だが、今の君はメカニックマンのドゥエ・ブルーノだ。その君が敵基地に潜入すると言っても、ブレックス准将はともかくヘンケン艦長は納得しないだろう」
それとも本名を名乗るか?―――そう問われれば、アムロとしては返す言葉がない。
「それに、カミーユのことはどうする?」
ダメ押し、と言うよりも今のアムロにとってはこちらの言葉の方が重かった。恐らくこのままガンダムMKUのパイロットに決まるであろうカミーユは、両親のこともあって精神が不安定なままだ。
「分かったよ。確かに、貴方の言う通りだ」
今、艦を降りることは出来ないと折れたのはアムロの方。シャアは安堵の表情を浮かべたものの、少々ばつの悪そうな表情に変わる。
「もっともらしいことを言ったが、本音を言えば、私はアムロをジャブローに行かせたくないのだ」
駆け引きの重要性は熟知していて、どちらかと言えば本人もそれは得意な筈なのに、妙なところで正直なシャアにアムロは思わずクスクスと笑ってしまった。
いや、絶妙なタイミングで抱きしめてくるところを見ると、もしかしてこれこそが駆け引きなのかもしれない。抱きしめられたシャアの腕の中でそんな風にも思うと、もう少しこの会話を続けてみたくなる。
「なら、最初から素直に『側に居ろ』って言えば良かったのに」
「そんなことを言っていたら、逆に君は意地でもジャブロー行きに立候補したのではないか?」
シャアは少々恨めしげな視線をアムロに送った。
アムロとは夜の時間を共にする関係ではあるが、なし崩し的な形で今の関係になったようなもので、二人の関係に明確な呼び名を付けることも出来ず、アムロから具体的な言葉をもらった訳でもない。近頃は(場所さえ弁えれば)拒否されることもなく、アムロの方から誘ってくることすらあるぐらいだから受け入れてくれているのだろうとは思っているが、アムロを独占したり、ましてや自分の側に束縛出来るなどとは思っていなかった。
―――『側に居ろ』などと言おうものなら、逃げ出すのではないか?―――
シャアとしてはアムロにそう言いたかったのである。
「確かに束縛されるのは好きじゃない」
ふいっと視線を逸らせてアムロが言った。連邦軍によってシャイアンの屋敷に軟禁され、ようやくそこから抜け出してきたのだ。それを知っているだけに、アムロを束縛するような言葉を口にすることは出来ない。ここはアムロを説得出来ただけで良しとすべきだろう。
ところが、そう自分に言い聞かせてこの話題を終わらそうとしたシャアに、アムロは逸らせていた視線を戻した。
「でも、それは相手と場合によるんじゃないか?」
意味深な表情と疑問系で口にされたアムロの台詞を耳にして、シャアが瞠目する。
「……それは、相手と場合によっては束縛されてもいいと理解して良いのだな?」
その『相手』に自分が含まれるのかどうか、シャアとしては非常に気になるところだが、その答えを問う勇気はない。
「今、君をこの場で束縛するのは許されるだろう?」
代わりに腕の中に閉じ込めたアムロをベッドに押し倒し、取りあえず『場合』の方で束縛することにした。
クイック投稿フォーム
この投稿フォームは、ログインされている場合にのみ表示されます。