▶0087 vol.7
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■0087 vol.7はシャアが宇宙に、アムロが地球にいる間のアムロ側の話になりますので、シャアが名前しか出てこないカップリング詐欺本となっております(汗)。ご了承の上お買い求めください。
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
宇宙(そら)へと戻るシャトルに乗りそこなったアムロとカミーユは、アウドムラでホンコン・シティに向かっていた。
「海だっ! ホンコンって海に近いんですね」
アウドムラのブリッジから見える景色を目にしたカミーユの声が弾む。
「海が好きなのかい?」
「好き嫌い以前に、コロニー育ちの人間には海が珍しいのさ」
カミーユに対するアムロの問い掛けに、応えたのはハヤトだった。
「地球育ちのアムロには分からないだろうけど」
今でこそ地球で活動するカラバのメンバーであるハヤトだが、元は生粋のスペースノイドであり、初めて地球の海を見た時は自分も感動したのだ。
「アムロさんって地球育ちなんですかっ!?」
窓に張り付くようにして外の景色を眺めていたカミーユが、驚いてアムロの方へと振り返る。
ニュータイプは『宇宙に出た人類が新しい環境に適応するために革新した』のだと言われている。そのプロトタイプとして有名なアムロ・レイが地球育ちだなんてカミーユには信じられなかった。
「生まれは地球だけど、小さい頃に地球を出たから育ちは宇宙だよ」
知ってるくせに、と言いたげに軽くハヤトを睨みながらアムロが言う。
「ああ、でも海を珍しいとは思わないな。宇宙へ出る前のほんの小さい頃に住んでいたのは海沿いの町だったし、父に連れられてあっちこっちのコロニーを渡り歩いた中には海のあるサイドもあったから」
実のところ、アムロ・レイの生い立ちについてはアムロ本人の記憶以上に詳しく書かれた書籍がいくつも出版されているが、カミーユが読んだアムロ・レイに関する本は一年戦争での活躍やホワイトベースのことが書かれたものばかりで、アムロの過去について書かれた物はどれも読んだことがなかった。だから本人の口から語られる『アムロ・レイの生い立ち』に興味深々だ。
「アムロさんのお父さんって、ガンダムの開発チームのメンバーだったんですよね?」
これは書籍など読むまでもなく有名な話しで、父親が開発チームにいたからアムロ・レイはホワイトベースに乗るまでに密かにガンダムの操縦訓練を受けていたのだという説もあるぐらいである。
「本当はどうなんです? サイド7でガンダムに乗る前に訓練とか練習とかしたことあったんですか?」
普通に考えて、軍の最高機密である開発中のモビルスーツに、いくら開発者の息子とは言え民間人の子供が乗り込んで訓練を受けていたなどあり得ないが、練習や訓練もなしでモビルスーツに初めて乗った人間がザク二機を倒したというのはもっとあり得ない話しだ。
カミーユも民間人からパイロットになった身ではあるが、全くの初心者だった訳ではない。ガンダムMKUとは程遠い機体ではあるが、モビルスーツには何度も乗って、大会で優勝したこともある。
「ないない。それはオレが保証するよ」
カミーユのみならず、ブリッジにいた者全員がアムロの答えに興味津々耳をそばだてているのを承知でハヤトが言った。
「ホワイトベースでサイド7を脱出した後、取り合えずモビルスーツに乗れそうな面々が操縦のシミュレーションをやったんだけど、みんな最初はものすごく下手でブライトさんを嘆かせたんだぞ」
「そうなんですか!?」
驚いたのはカミーユだけではないらしく、ブリッジが騒めく。
「まあ、アムロは一人先にあっという間に上手くなっちまったけどな」
どことなく悔しそうに付け加えられたハヤトの台詞に、
「そうだっけ?」
と呟いてアムロが首を傾げた。
「そうだったんだよ。アムロは知らないだろうけど、きちんと訓練を受けてたリュウさんすらすぐに追い越しちまって、みんな悔しがったんだぞ。寝る間も惜しんでシミュレーションマシンに張り付いてた奴もいるぐらいだ」
実はそれは自分のことだとの明言は避け、アムロに追いつきたい追い越したいと焦っていた頃の自分を、ハヤトは懐かしく思い出す。そんなハヤトの思いをぶち壊すかのように、アムロが言った。
「ああ、あれだ。ゲームセンターのシューティングゲームとかは小さい頃から得意だったから……」
「そんなものと一緒にするなっ!」
ハヤトの突っ込みはその場にいた全員に共通する思いだったかもしれない。
▶4つの名前
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■シリーズの番外編的な話
■『THE ORIGIN』でシャアがシャアの名前を手に入れた経緯とジンバ・ラルの扱いについて残念に思ったゆえの捏造作品です。
■サンプル
それは宇宙世紀0086。アムロ・レイのシャイアンの屋敷に、ソロモンの悪夢と言われたアナベル・ガトーと元連邦軍パイロットのコウ・ウラキが居候のような形で同居し、そこにかつて赤い彗星と呼ばれたシャア・アズナブルが度々顔を出すという奇妙な生活が間もなく終わりを告げようとしていた頃。
「どうしてドゥエ・ブルーノなのだ!?」
シャアは明らかに『納得しかねる』といった表情でアムロを問い詰めた。
「いや、特に拘りがある訳じゃないんだけど…」
シャアの勢いにむしろ困惑した様子でアムロが肩を竦める。
クワトロ・バジーナという偽名でシャアがエゥーゴに参加することが決まっており、続いてアムロもエゥーゴへの参加を決意したのだが、現在のティターンズとエゥーゴの組織力や戦力差を考慮して、アムロ・レイがエゥーゴに参加することは当面公表しない方が良いのではないかという話しになり、ならばアムロにも偽名の身分証明書が必要であろうということになった。それについてはシャアに当てがあるということなので任せることになったのだが、名前をどうするかという話しになってシャアとアムロが揉めたのだ。
「偽名と言われても特に思いつかないから、貴方が4(クワトロ)だから僕は2(ドゥエ)で良いかな…とか」
「そんな安易な」
横から口を挟んだのはガトーである。別にシャアの肩を持つつもりはなかったが、自分が名乗る名前なのだからもっと慎重に考えるべきだ、と生真面目な彼らしい主張をした。
「そう言われても、そんなに長期間名乗る予定でもないんだから」
事実、アムロは自分の偽名に何の拘りもなかったので、シャアがその名前はどうしても気に入らないと言うのなら変えても良かったのだが、シャアとガトー二人から責めるように言われては何となく面白くない。素直に別の名前を考え直すか、意地を張り通すか―――迷った、というよりもこの場にいるもう一人はどう思っているのか少しばかり興をひかれて視線を向ける。
「あ…あの、僕はアムロさんの偽名以前に、どうしてシャアさんの偽名が4(クワトロ)なのか分からないんですけど」
アムロの視線を受けたコウは素直な疑問を口にした。
「アムロさんの2(ドゥエ)に負けるのが気に入らないなら最初から4(クワトロ)じゃなくて1(ウノ)とか0(ゼロ)とかにしておけば良かったんじゃないんですか?」
と。
「そんな安易な」
またもや真面目なガトーがコウを叱ったが、コウの言葉でガトーもクワトロ(シャアの偽名)を疑問に思ったらしい。
「確かに4(クワトロ)とは大佐らしくない名前だと思いますが…」
今更ながら、シャアがこの偽名を選んだ理由に興味を覚えたようだ。
理由を聞きたがる二人の言葉を耳にしてアムロは困った様子でシャアを見たが、当のシャアは特に迷う様子もなく口を開いた。
「クワトロを選んだのは単純な理由だ。それが私の4つ目の名前になるからな」
ガトーは「そんな安易な」とは言わなかった。
「4つ目の名前っ!? シャアさんって今までそんなに何度も偽名を名乗ってきたんですか?」
これまで偽名など一度も名乗ったことがないコウが驚きの表情で口にしたのとほぼ同じ台詞を心の中で叫んでいたからである。ただ、コウよりも人生経験豊富かつ思慮深いガトーは、この話題をこれ以上突っ込んで良い物かどうか迷ったのだ。チラリと視線を向ければ、アムロも同じように思っているらしい表情をしている。
そんな二人の憂慮を余所に、
「驚かせて悪いが君がたった今口にした『シャア』という名前も偽名の一つだぞ」
シャアは更なる爆弾発言をした。
今度はアムロとガトーの表情がきっちりと二つに分かれる。
『あーあ、言っちゃった』
とでも言いたげに肩を竦めたアムロに対して、ガトーは驚愕のあまり言葉も出ない様子だ。
「えーーーっ! 嘘でしょう? それなら僕はこれからシャアさんのことを何て呼べばいいんですか!?」
微妙に論点のずれているコウの台詞に
「問題はそこではないだろう!」
と言葉が出たのは。たっぷり三十秒近くも絶句してからである。
「いや、今まで通りシャアと呼んでくれて構わないが」
コウの反応が面白かったのか、クスクスと笑いながらシャアはアムロに向けて問い掛けた。
「君はどこまで知っている?」
「貴方の本当の名前はセイラさんから聞いた。セイラさんの名前(マス)のことを考慮すれば『シャア』が3つ目の名前だってことは想像出来る」
だからエゥーゴに入るためにシャアが用意した偽名が4(クワトロ)だと聞かされた時にも『単純だなあ』と思いこそすれ、特に疑問には思わなかった。それどころか、自分も偽名を考えなければならなくなった時、『自分は2つ目の名前(初めての偽名)だから2(ドゥエ)でいいか』と安易に考えたぐらいなのだ。
「でも、それだけだ。セイラさんは、貴方の過去(プライバシー)に深く食い込むような話しまでした訳じゃないぞ」
セイラの名誉のためにも断言したアムロに軽く頷いて、
「そうか。ならば、この二人に説明がてら少し昔話に付き合ってもらえるか」
シャアは語り始めた。
「父が暗殺されたあの日……私とアルテイシアは一人の男に助けられて、始めて地球に降りてきた」
▶0087 vol.6
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
アウドムラはヒッコリーに向っていた。ヒッコリーにあるシャトルで、帰り損ねたエゥーゴのパイロットを宇宙(そら)へ帰すのが第一の目的だが、ジャブローで救出したカイから『ヒッコリーに行けばティターンズの拠点に関する情報が手に入る』という話しを聞いたためでもある。しかしながら、そのカイはといえば『偽名を名乗っているシャアと同席するのは性に合わない』などと言い残して姿をくらましてしまったらしい。
「ヒッコリーまで何事もないと良いんだけどな」
ブリッジに姿を見せたクワトロとアムロにハヤトが声を掛ける。
「ハヤト艦長には申し訳ないが、それは無理だと思うぞ」
応じたのはクワトロだ。
「何で分かるんです?」
ハヤトは不思議そうな表情で軽く首を捻るが
「私ではない。アムロがそう言っている」
それだけで納得した様子で肩を竦めた。
「さっきの新型がまた来るのか?」
「少し違う気がする。どちらかと言うとニュータイプに近い感覚だ」
応えたアムロは
「そんな気がするだけだからな」
そう付け加えたが、アムロの勘を疑うつもりはないのだろう。
「厄介な敵ということか」
渋い表情のハヤトは迎撃体制の指示を出す。迎撃体制が整ったまさにそのタイミングで、艦内に敵襲を告げるアラートが鳴り響いた。
「敵のパイロット、女……でした?」
戦闘が終わってすぐ、カミーユが漏らした言葉は当たっていた。アウドムラを強襲してきたのは、変形モビルアーマーのギャプラン。操っていたのは強化人間の女性パイロット、ロザミア・バダム。他にも数機モビルスーツがいたが、強敵と呼べるのはその一機だけだ。
とは言え、その一機も迎撃準備を整えていたアウドムラの敵ではなかった。
「飛行タイプに変形出来るモビルアーマーを相手に、ドダイでは不利かと思ったが、さすがだな」
ブリッジでモビルスーツの戦いぶりを見ていたハヤトは誰へともなく賞賛の言葉を贈ったが、
「アムロの予感もたまには外れるのだな」
クワトロは、出撃前に『嫌な予感がする』と言ったアムロを揶揄(からか)う。悪い予感など外れた方が良いに決まっているのだから、口調は軽く表情も笑み混じりだ。
しかし、ブリッジを始めアウドムラ艦内が楽勝ムードで明るい雰囲気の中、アムロの表情は冴えない。
「でも、敵の女パイロット、今まで戦った敵とはどこか違いましたよ」
アムロの様子に気付いたという訳でもないのだろうが、カミーユが戦闘中に感じた違和感を口にすれば、
「ああ、あれは恐らく強化人間だろう」
戦闘中の敵を思い出してクワトロが応えた。
「強化人間?」
聞きなれない言葉にカミーユは首を捻る。
「薬やマインドコントロールで作り出されたニュータイプもどきのことさ」
そう教えてくれたのはハヤトで、口調にはどこか棘があった。
「まあ、そういう意味ではアムロの勘はやっぱり当たってたってところだな」
「そうだと良いんだけど……」
「何か気になるのか?」
煮え切らない様子のアムロにハヤトが問う。
「何となく『コレじゃない』って気がするんだけど、よく分からない」
「おいおい、随分曖昧だな」
「そうさ。ニュータイプなんてそんな便利なものじゃないって、いつも言ってるだろう?」
気安い雰囲気で会話を進めるアムロとハヤトを、カミーユはどこか羨ましそうに、クワトロは若干―――ではなく大いに嫉妬交じりの視線で眺めていた。
▶0087 vol.5
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
宇宙(そら)から地球へと降下してきたエゥーゴのメンバーは、ジャブローの基地でレコアとカイを救出した後、ギリギリのタイミングでジャブローを脱出した。もはや見捨てることが決まっていた基地をエゥーゴに対する罠として使ったのだろうが、未だ味方も残っている基地を核で爆発させるなど、正気の作戦とは思えない。
「コロニーに毒ガスを注入して民間人を丸ごと虐殺するような奴らだ。基地に残っている味方なんて『多少の犠牲』程度にしか思っていないんだろう」
百式に急遽取り付けたサブシートで眉を顰め、苦々しい口調で呟いたアムロに、同意してシャアも頷く。ただ、シャアとしてはアムロのように素直に憤ってばかりもいられなかった。アムロの口から30番地事件のことが語られると、どう反応したものか迷ってしまう。
そんなシャアの戸惑いに気付いたのだろう。
「そんなにいつまでも気を使ってくれなくて大丈夫だって」
アムロは苦笑して肩を竦めた。
「僕は貴方が思っているほどお人好しでも繊細でもないぞ」
「さて、それはどうかな。繊細かどうかはともかく、お人好し度はかなりのものだと思うが?」
「だから、違うって」
「いいや、お人好しだ。そこにつけ込んで毎回君を押し倒している私が言うんだから、間違いない」
揶揄(からか)うような、だがどこか真剣な口調でシャアが言う。
「それ、貴方が言うなって感じだけど……」
二人きりのコクピット、しかもアウドムラの格納庫に収納されている安心感も手伝って、少々気の緩んだ会話になってきたが、アムロは構わず続ける。
「やはり貴方間違ってるぞ。僕が押し倒される側に甘んじているのは、何もお人好しだからじゃない」
「え……?」
微妙に視線をそらせ、よく見なければ分からない程度に頬を赤らめたアムロの顔を覗き込んだ。
「アムロ。今の話しを詳しく―――」
アムロの両肩に手を置き、その身体を抱き寄せんばかりのシャアの勢いを止めたのは、
『正体不明の機体が近づいてきます』
というアウドムラクルーの言葉だった。
いい所で邪魔をされたシャアが思わず舌打ちをするが、そこはさすがに彼である。すぐに気持ちを切り替え
「迎撃するか」
言うと同時にライフルを構えた。隣のアポリー機も倣ったが、それをアムロが止める。
「いや、待て。あれは味方だ」
『カラバのハヤト・コバヤシだそうです』
アウドムラのクルーがアムロの言葉を肯定したが、当のアムロはギクリと身体を強張らせた。
「ハヤトだって?」
ジャブローからの脱出騒ぎで忘れかけていたが、カミーユが操縦するMKUの手の中にはカイがいる。アムロとしてはホワイト・ベースの仲間との再会を喜び懐かしむどころではない。
アムロ・レイが事故を起こして意識不明の重体という情報が流れてから、カイからもハヤトからも相次いでシャイアンの屋敷に問合せがあった(とガトーが言っていた)。ガトーとコウには、外からの問合せに対しては例外なく対応するよう頼んであったから、ホワイト・ベースの元クルーだと名乗る二人に応対したガトーは事務的に返答したが、一応アムロには二人から問い合わせがあったことを連絡してきてくれたのだ。
「その時、すぐに僕から二人に連絡しておけば良かったんだろうけど…」
「カイ・シデンとハヤト・コバヤシか?」
どこか面白がっている風なシャアの口調が少々気に触ったが、それよりもシャアが二人のフルネームを知っていることに驚く。
「ホワイト・ベースのことは調べられる限り調べたから、メインクルーの名前ぐらいは把握しているさ。アルテイシアのこともあったし、何より君に興味があったからな。アムロ・レイの経歴なら年表が書けるくらい詳しいぞ」
そう言ってシャアが語りだした『アムロ・レイの経歴』はアムロ自身すら「そう言われれば、そんなこともあったな」というようなことまで含まれていて、アムロを唖然とさせる。
「……そんなことまでよく調べたな」
「ほとんどはマスコミからの情報だぞ。それに私が独自に調べた情報を足して、アムロファイルを作ってある」
一歩間違えれば―――いや、既にもう立派なストーカー発言だが、嫌な気はしなかった。それに、自分も(シャアほどではないが)シャアのことは出来る限り調べたのだから、お互い様というやつだ。だから、シャアに知られるのは構わないのだが―――
「マスコミは僕のプライベートをどこまで報じたんだ?」
今更ながら気になる。
「一年戦争終結直後は、それは凄かったぞ。見なかったのか?」
逆にそう問われても、その頃のアムロは間違ったニュータイプ像ばかりが報じられる中、その誤解を解くことに必死で(結局誤解を解くことはほとんど出来なかったが)自分のプライベートがどのように報じられているかなんて興味も関心もなかったのだ。素直にそう口にすれば、
「今度、私のアムロファイルを見せてやろう。中には間違った報道も沢山あっただろうから、訂正してくれると助かる」
冗談交じりの口調でシャアが言う。
「間違った報道ね。例えば?」
「そうだな。実はアムロ・レイは五歳の時にテスト飛行で始めてガンダムに乗った……とか」
「それは酷いな。僕が五歳の頃なんて、まだガンダムどころか連邦軍ではモビルスーツの開発すら始まっていない」
ガンダムのパイロットはエスパーだった―――なんて見出しの記事は沢山見たが、歴史的事実を無視した捏造記事には呆れればいいのか笑えばいいのか分からない。
「貴方が持ってるファイルの中にいるアムロ・レイは僕とは別人かもしれないぞ」
苦笑交じりのアムロの台詞に、
「だから、現在進行でファイルの内容を訂正しているところさ」
シャアは笑って答えたのだった。
▶0087 vol.4
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
アーガマでブライトと思わぬ再会を果たしたアムロだが、そのブライトとアムロが落ち着いて話しを出来る機会はすぐには訪れなかった。テンプテーションの艦長としての任務が残っている上に、今後の身の振り方についてアーガマのメインクルーやエゥーゴ上層部と何かと話しをしなければならないブライトは多忙であり、アムロはアムロで正体がバレてしまったことについて各方面にフォローをしなければならなくなったからだ。最優先でフォローしなければならない相手と話すことが出来たのは、テンプテーションの救出から半日近くが経ってからだった。カミーユと話をするタイミングを窺いつつデッキでテンプテーションの解体や出撃したモビルスーツのメンテナンスをしていたアムロに、カミーユの方から近づいて来たのである。
「今いいですか?」
カミーユが声を掛けてきた時、アムロの手には工具が握られていたが「こっちはもういいから、行ってやれよ」と言ってくれたアストナージに後を任せてデッキを後にした。どこで話しをしようかと問うアムロに、最初からそのつもりだったのか迷うことなく
「僕の部屋で」
とカミーユが応じる。
「メカニックの人達は態度変えてないんですね」
部屋に着くまで沈黙を覚悟していた(むしろ部屋についてからカミーユにどう話しを切り出そうかと思案していた)アムロは、デッキを出てすぐ口を開いたカミーユに驚き、同時に安堵した。カミーユは思ったよりずっと落ち着いているようだ。
「最初は妙な敬語を使われたり余所余所しい態度を取られたりしたけど、止めてくれと頼み込んだんだ」
一年戦争の英雄であり大尉という階級にあるアムロに対して、デッキクルーも今後の接し方を迷っていたが、これまで通り接して欲しいとのアムロの言葉を案外すんなりと受け入れてくれた。
「英雄だ大尉だって言っても、そんな貫禄がないからね僕には」
おどけて付け加えれば、
「確かに。僕もすっかり騙されました」
カミーユが苦笑を返す。『騙された』という台詞にアムロはドキリとしたが、カミーユの声音は案外軟らかかった。だが、それっきり黙りこんでしまったカミーユから感情を窺うことは出来ない。シャアが危惧しているほど、アムロとカミーユの間にニュータイプ同士の共鳴や共感が成り立つ訳ではないのだ。そもそも、ああいうことは『ここぞ』という場面で発揮されるものであって、ニュータイプ同士なら常に言葉無しでコミュニケーションが成り立つことなど有り得ず、今も口調や表情、態度から思ったよりずっと落ち着いていると感じ取るのがせいぜいである。
「今からする僕の話しをアムロ・レイではなく、仲良くしてくれた友人のディーとして聞いて欲しいんです」
部屋に入って、最初に言葉を発したのもカミーユの方だった。その方が本音をぶつけてくれるだろう。アムロにとってもカミーユの提案は願ったり叶ったりだ。
アムロの気持ちを汲み取ったのか、カミーユは返事を待つことなく話し始めた。
「グリーンオアシスにいた頃、僕はアムロ・レイやブライト艦長に憧れてた」
一年戦争の逸話の数々に心を躍らせ、ホワイト・ベースのクルーに憧れ、アングラで発行された本や雑誌まで探して読み漁った。あの日も、ブライト艦長のテンプテーションが入港してくると聞いて宇宙港まで行ったところを、エゥーゴのMKU強奪作戦に巻き込まれたのだ。
「でもアーガマに乗ってからは、何かと言えばアムロ・レイを引き合いに出されて比べられて、アムロ・レイのことなんか大嫌いになったんだ」
みんながアムロ・レイと同じ才能があるのだからパイロットになってガンダムに乗るべきだ、と口を揃えて言う。言われるたびに反発して、どんどんアムロ・レイが嫌いになっていって、逆に、嫌なら乗る必要は無いと言ってくれたディーに対する信頼と友愛が深まっていった。だから、そのディーが実はアムロ・レイだったと知らされたとき、騙されていたことが悔しくて悲しくて―――
「でも、どこかで納得もしてた」
きっと心のどこかで、ディーは他の人とどこか違うと感じていたのだろう。
「ディーが僕に、ガンダムの乗らなくても良いって言って
くれたのは、僕にはアムロ・レイのようにガンダムを乗りこなすのは無理だと思ったから?」
「それは違う」
カミーユの口から『大嫌いになった』と言われたときにも表情すら変えることなく話しの続きを促したアムロが、初めて口を挟んだ。
「むしろ逆だよ。カミーユなら僕以上にガンダムを乗りこなしてしまうんじゃないかと思ったから、自分の意思でないなら乗らない方が良いと思った。カミーユには僕のような思いをして欲しくなかったんだ」
アムロの言う『僕のように』の真意は、今のカミーユには理解出来なかった。それでも、アムロがカミーユのことを思って言ってくれていたのだということだけは解かった。
「さっきも言った通り、いろんな本や雑誌であなたのことを読みましたけど、アムロ・レイがこんなにお人好しの世話焼きだなんて、どこにも書いてありませんでしたよ」
自分の中で吹っ切れたのか、表情を軟らかくしたカミーユに、
「それはそうだろう。お人好しの世話焼きなんて初めて言われた」
苦笑を浮かべたアムロが肩を竦めて応じる。
「そうですか? 僕を特別扱いしてくれてるって自惚れたいところですが、アムロさんの『特別』は僕じゃないですよね」
ディーがアムロ・レイだと知った時、カミーユはアーガマで囁かれているあの噂は真実なのだと確信した。そして、その噂の主がアムロにとって特別なのは当然だとも思った。
カミーユの指摘に一瞬ドキリとしたアムロはうろたえたかのように視線を扉の方へと外したが、カミーユが言う
『特別』にそういう意味は含まれていないようだ。
「……確かに、あの人は特別だね」
そう認めながらも、どう特別なのか言及されることは避けたいアムロは、カミーユに視線を戻しながら速やかに話題を軌道修正する。
「四年前にある人から、自分にガンダムを乗りこなすのは無理なんじゃないか、自分は乗らない方が良いんじゃないかと相談されたことがある」
それはカミーユの気を惹くに充分の話題だった。
「その人も僕みたいな子供だったんですか? やっぱりその時も、嫌なら乗らない方がいいって言ったんですか?」
矢継ぎ早に問い掛ける。
「いや。その時は、君がガンダムに乗るべきだと言ったよ」
「そうなんですか?」
「彼はカミーユのような未成年の民間人じゃなく訓練を
受けた軍人だったし、なにより彼の本心はガンダムに乗りたがっていたからね」
「ああ、それは……当然ですよね。ガンダムはパイロットなら誰だって憧れる機体だし」
納得した様子のカミーユに、アムロは続く言葉を飲み込んだ。倒したい相手がいる―――コウがそう言ったからこそ、あの時アムロはコウの背中を押したのだが、今のカミーユにそれを言っても仕方がない。
「カミーユも、もうガンダムを……アーガマを降りる気はなさそうだね」
人が戦う理由はそれぞれで、カミーユが戦うことを決めた理由もカミーユだけのものだ。
「戦争は好きじゃないですけど、アーガマの人達には良くしてもらったし、ティターンズの遣り方を知った今、奴らを許せないって」
カミーユが気持ちを決めたのなら、これ以上彼を止めることは出来ないし、止める気も無かった。
「なら最後にもう一度だけ、僕の言うことをアムロ・レイの言葉じゃなく、カミーユの友達のディーの言葉として聞いてくれるか?」
神妙な表情で頷くカミーユにアムロが言う。
「この先、戦いを続けていけば辛いことが沢山あると思う。
その時は、一人で思い悩まないで相談して欲しい。アーガマのクルーの誰かとか、友達のディーとか……アムロ・レイにでも」
▶0087 vol.3
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
グラナダでの戦闘でカミーユはますますニュータイプ能力とパイロットとしての適性を示して見せた。旗艦(アーガマ)を守っていたエマ・シーンの危機をいち早く察し、エマ(リック・ディアス)と旗艦(アーガマ)を救ったのだ。
そして、正式なアーガマのクルーになることは拒否していたカミーユ自身も、エマを助けたことで何か吹っ切れたのだろう。パイロットとして扱われることを受け入れ、褒められれば満更でもない反応を見せる。
それならそれで良いとアムロは思った。カミーユがそう決断し覚悟を決めたのなら。ただ、それならそれで、このままではいけないとも思った。
宇宙世紀0087.05.02。カミーユが初めてガンダムMKUに乗ってから、ちょうど二ヶ月が経っていた。
「カミーユにはきちんと名前を名乗った方が良いと思わないか?」
ふいの問い掛けにシャアはそれまでの動きを止め、怪訝な表情(かお)で首を捻る。その台詞は形こそ疑問系であったが、既にアムロの中では気持ちが固まっているように聞こえたからだ。
「それは君の? それとも私の方か?」
少々意地の悪い口調になったと自覚はあった。アムロがカミーユを構う理由は理解出来るが、理性で理解出来ることと感情が納得出来るかどうかは別問題、とはよく言ったものである。
「僕のに決まっているだろう。貴方が本名を名乗ってどうする」
相手の口調に感化されたのか、アムロの言い方にも棘があった。一瞬、二人の間に緊張を孕んだ空気が流れたが、シャアもアムロも今ここで相手と喧嘩をしたい訳ではない。
「そうだな。私の場合、本名より偽名を名乗っていた時間の方が長いからな」
先に折れたシャアが冗談めかした口調で言えば、
「四つも名前を持っていると大変だな」
アムロも笑いながら揶揄する。
顔を見合わせて笑った後、シャアは表情を改めた。アムロが名前を名乗った方が良いと考えた切っ掛けに思い至ったのだ。
「エマ・シーンのことを気にしているのか?」
エマの口から『シャイアンでアムロ・レイに会ったことがある』と聞いてから、アムロは極力エマと顔を合わせないようにしていたが、同じ艦のパイロットとメカニックマンでは避けるのにも限度がある。
「彼女は勘も記憶力も良い。こうやって変装していても、記憶の中の『アムロ・レイ』とメカニックマンのディーを結びつけるのは時間の問題だろう」
一応眼鏡とウィッグで変装してはいるものの、アムロとしてはエマがいつ自分の本名に気付くか気が気ではない。
「バレたらバレた時のことだ。その時に対処すれば良い」
シャアの言葉にも首を横に振る。
「他のクルーには、ね。だけどカミーユにはその前に僕の口からきちんと伝えておきたいんだ」
「やはり、カミーユは特別……か」
先程のように棘はないが多少なりとも苦み成分を含んだ呟きに続けて、シャアはアムロに問い掛けた。
「確かにアムロが言う通り、今は兄のように君を慕っているだけだろう。だが、君が『アムロ・レイ』だと知ったらカミーユの気持ちは変わると思わないか?」
「それは変わるだろうな」
断言するように応えたアムロは、シャアが口を開くより前に続ける。
「だけど、貴方が想像しているようにじゃない。むしろ反対方向に変わると思うぞ」
アムロとララァの出逢い(ニュータイプ同士の共感)を見せつけられたシャアは、メカニックマンのディーがアムロ・レイだと知った時カミーユがアムロに対して『特別な感情』を抱くのではないかと危惧しているらしいが、アムロに言わせればそれはシャアの思い過ごしだ。
カミーユは『メカニックマンのディー』を慕っている。周囲の人間が何かにつけてカミーユをアムロ・レイと比べ、ニュータイプを便利で優秀なマシンのように扱う中で、ディーは「無理してパイロットになることはない」と、「ニュータイプは戦うための道具なんかじゃない」と言われたことが嬉しかったからだ。
だが、そのディーこそがカミーユが比べられるのを嫌がっているアムロ・レイだと知ったら―――
「カミーユは裏切られたと思うだろう。傷付いて……恐らく僕を嫌いになる」
視線を伏せたアムロの言葉を聞いて、シャアは問い詰めるように言う。
「本名がバレる前に自分からカミーユに名乗ろうとするのは、どこまでもカミーユのためだけか?」
痛いところを突かれてアムロは一瞬息を詰めたものの、すぐに諦めた様子で肩を竦めた。自分がシャアのことなら大抵のことは分かるように、相手にも自分のことは大概見抜かれてしまうらしい。
「カミーユを傷つけたくないのが七割、これは本心だぞ」
残りの三割については追求するなと無言で訴えたアムロだったが、シャアは許してくれそうになかった。同じく無言で、視線だけで続きを促され仕方なく白状する。
「エゥーゴの一クルーとして、パイロットとして安定してきたカミーユのコンディションを乱したくないという打算が二割。後の一割は―――」
自分でアムロを追求したにもかかわらず、続きは聞きたくないとシャアは思った。
「慕ってくれているカミーユに嫌われるのは辛い……個人的なエゴだな、これは」
ほぼ予想通りの答えを耳にして、心の奥がズキリと痛む。それが嫉妬であることは自覚していた。アムロはああ言ったが、シャアにとってニュータイプ同士の出逢いはトラウマに近い。
シャアは思い出したように、アムロの中に埋めていた指でその内部をきつめに抉った。
「―――っ……」
突然与えられた刺激にアムロは息を詰める。だが、抵抗や苦情の言葉を口は、シャアから先制攻撃を食らって不発に終わった。
「抗議は聞かないぞ。そもそも事の途中で突然会話を持ち掛けたアムロが悪い」
確かにシャアの言う通りだ。
キスをしながら縺れるようにしてベッドに倒れ込み互いの服を脱がせ合って、その身体に触れた。高まった熱で理性が溶け出す頃合いを見計らって、シャアはアムロの後孔に指を差し入れ、そこを解す。初めての時は屈辱と恐怖と痛みに悲鳴を上げたアムロの身体も、回数を重ねて慣れてきたのだろう。最近では指一本からでも快楽を拾い出すようになった後孔は、シャアの指が内部の敏感な場所に触れるたび無意識に指を締め付けた。と同時に小さな声を零したアムロは、照れくさそうに目元を赤く染めて視線を逸らせる。
アムロの反応に気を良くしたシャアも、自身の下半身に熱が集まるのを自覚した。一度指を引き抜き、更に広げるため、今度は二本の指を差し込む。身体の力を抜くためか、アムロが軽く息を吐いた―――そんな時、突然アムロが先程の会話を切り出したのである。
▶0087 vol.2
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
アーガマでクワトロ・バジーナ、ドゥエ・ブルーノと名乗っている二人は、二人きりになると別の名を呼び合う。互いに呼び合うその名前の一方は本名だが、もう一方はそれすらも偽名だ。クワトロという偽名の通りその名前は彼の四つ目の名前で、彼の本名がエゥーゴにとって意味を持つのはもう少し先の話である。
戦艦という限られた、しかも至る所にカメラが仕掛けられた空間の中で、二人きりになれる場所や時間は限られている。確実に二人きりになれるのは、一方のプライベートルームにもう一方が訪れる時。
その夜も、シャアはアムロの部屋を訪れていた。
「地球に人を降ろす?」
アムロの言葉にシャアは頷いて見せる。
「ブレックス准将の意向でな。ジャブローの様子を探らせたいらしい」
シャアはこの作戦にはあまり乗り気ではないようだ。まあ、それも当然だろう。現在のジャブローはティターンズの本拠地なのだ。そんなところにエゥーゴの人間を送り込むとなれば、危険な任務になるのは明白である。
「……そう言うことなら、僕が行こうか?」
アムロがそう申し出たのは、何も自分が進んで危険な任務を引き受けようという英雄的思考によるものではなく、一年戦争中やその後を含めジャブローには何度か行ったことがあるため、他のクルーが行くよりは危険が少ないと思ったからだ。一応、人より多少勘が働く自負もある。
だが、アムロの申し出はシャアによってすぐさま否定された。
「馬鹿なことを言うな」
「どうして、馬鹿なことなんだ? ジャブローなら何度か行ったことが―――」
「この作戦の人選は既に終わっている」
その人選にも賛成出来ないが、アムロをジャブローにやる気は微塵もない。シャアの口調からは、彼のそんな気持ちが伝わってきた。
「その人選で選ばれた人物と僕と、作戦の成功率はどちらが高いと思うんだ?」
シャアの顔を見つめながら、アムロが静かに口を開く。
「それは、君だろうな」
そこはシャアも素直に認めた。
「だが、今の君はメカニックマンのドゥエ・ブルーノだ。その君が敵基地に潜入すると言っても、ブレックス准将はともかくヘンケン艦長は納得しないだろう」
それとも本名を名乗るか?―――そう問われれば、アムロとしては返す言葉がない。
「それに、カミーユのことはどうする?」
ダメ押し、と言うよりも今のアムロにとってはこちらの言葉の方が重かった。恐らくこのままガンダムMKUのパイロットに決まるであろうカミーユは、両親のこともあって精神が不安定なままだ。
「分かったよ。確かに、貴方の言う通りだ」
今、艦を降りることは出来ないと折れたのはアムロの方。シャアは安堵の表情を浮かべたものの、少々ばつの悪そうな表情に変わる。
「もっともらしいことを言ったが、本音を言えば、私はアムロをジャブローに行かせたくないのだ」
駆け引きの重要性は熟知していて、どちらかと言えば本人もそれは得意な筈なのに、妙なところで正直なシャアにアムロは思わずクスクスと笑ってしまった。
いや、絶妙なタイミングで抱きしめてくるところを見ると、もしかしてこれこそが駆け引きなのかもしれない。抱きしめられたシャアの腕の中でそんな風にも思うと、もう少しこの会話を続けてみたくなる。
「なら、最初から素直に『側に居ろ』って言えば良かったのに」
「そんなことを言っていたら、逆に君は意地でもジャブロー行きに立候補したのではないか?」
シャアは少々恨めしげな視線をアムロに送った。
アムロとは夜の時間を共にする関係ではあるが、なし崩し的な形で今の関係になったようなもので、二人の関係に明確な呼び名を付けることも出来ず、アムロから具体的な言葉をもらった訳でもない。近頃は(場所さえ弁えれば)拒否されることもなく、アムロの方から誘ってくることすらあるぐらいだから受け入れてくれているのだろうとは思っているが、アムロを独占したり、ましてや自分の側に束縛出来るなどとは思っていなかった。
―――『側に居ろ』などと言おうものなら、逃げ出すのではないか?―――
シャアとしてはアムロにそう言いたかったのである。
「確かに束縛されるのは好きじゃない」
ふいっと視線を逸らせてアムロが言った。連邦軍によってシャイアンの屋敷に軟禁され、ようやくそこから抜け出してきたのだ。それを知っているだけに、アムロを束縛するような言葉を口にすることは出来ない。ここはアムロを説得出来ただけで良しとすべきだろう。
ところが、そう自分に言い聞かせてこの話題を終わらそうとしたシャアに、アムロは逸らせていた視線を戻した。
「でも、それは相手と場合によるんじゃないか?」
意味深な表情と疑問系で口にされたアムロの台詞を耳にして、シャアが瞠目する。
「……それは、相手と場合によっては束縛されてもいいと理解して良いのだな?」
その『相手』に自分が含まれるのかどうか、シャアとしては非常に気になるところだが、その答えを問う勇気はない。
「今、君をこの場で束縛するのは許されるだろう?」
代わりに腕の中に閉じ込めたアムロをベッドに押し倒し、取りあえず『場合』の方で束縛することにした。
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