▶0087 vol.5
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
宇宙(そら)から地球へと降下してきたエゥーゴのメンバーは、ジャブローの基地でレコアとカイを救出した後、ギリギリのタイミングでジャブローを脱出した。もはや見捨てることが決まっていた基地をエゥーゴに対する罠として使ったのだろうが、未だ味方も残っている基地を核で爆発させるなど、正気の作戦とは思えない。
「コロニーに毒ガスを注入して民間人を丸ごと虐殺するような奴らだ。基地に残っている味方なんて『多少の犠牲』程度にしか思っていないんだろう」
百式に急遽取り付けたサブシートで眉を顰め、苦々しい口調で呟いたアムロに、同意してシャアも頷く。ただ、シャアとしてはアムロのように素直に憤ってばかりもいられなかった。アムロの口から30番地事件のことが語られると、どう反応したものか迷ってしまう。
そんなシャアの戸惑いに気付いたのだろう。
「そんなにいつまでも気を使ってくれなくて大丈夫だって」
アムロは苦笑して肩を竦めた。
「僕は貴方が思っているほどお人好しでも繊細でもないぞ」
「さて、それはどうかな。繊細かどうかはともかく、お人好し度はかなりのものだと思うが?」
「だから、違うって」
「いいや、お人好しだ。そこにつけ込んで毎回君を押し倒している私が言うんだから、間違いない」
揶揄(からか)うような、だがどこか真剣な口調でシャアが言う。
「それ、貴方が言うなって感じだけど……」
二人きりのコクピット、しかもアウドムラの格納庫に収納されている安心感も手伝って、少々気の緩んだ会話になってきたが、アムロは構わず続ける。
「やはり貴方間違ってるぞ。僕が押し倒される側に甘んじているのは、何もお人好しだからじゃない」
「え……?」
微妙に視線をそらせ、よく見なければ分からない程度に頬を赤らめたアムロの顔を覗き込んだ。
「アムロ。今の話しを詳しく―――」
アムロの両肩に手を置き、その身体を抱き寄せんばかりのシャアの勢いを止めたのは、
『正体不明の機体が近づいてきます』
というアウドムラクルーの言葉だった。
いい所で邪魔をされたシャアが思わず舌打ちをするが、そこはさすがに彼である。すぐに気持ちを切り替え
「迎撃するか」
言うと同時にライフルを構えた。隣のアポリー機も倣ったが、それをアムロが止める。
「いや、待て。あれは味方だ」
『カラバのハヤト・コバヤシだそうです』
アウドムラのクルーがアムロの言葉を肯定したが、当のアムロはギクリと身体を強張らせた。
「ハヤトだって?」
ジャブローからの脱出騒ぎで忘れかけていたが、カミーユが操縦するMKUの手の中にはカイがいる。アムロとしてはホワイト・ベースの仲間との再会を喜び懐かしむどころではない。
アムロ・レイが事故を起こして意識不明の重体という情報が流れてから、カイからもハヤトからも相次いでシャイアンの屋敷に問合せがあった(とガトーが言っていた)。ガトーとコウには、外からの問合せに対しては例外なく対応するよう頼んであったから、ホワイト・ベースの元クルーだと名乗る二人に応対したガトーは事務的に返答したが、一応アムロには二人から問い合わせがあったことを連絡してきてくれたのだ。
「その時、すぐに僕から二人に連絡しておけば良かったんだろうけど…」
「カイ・シデンとハヤト・コバヤシか?」
どこか面白がっている風なシャアの口調が少々気に触ったが、それよりもシャアが二人のフルネームを知っていることに驚く。
「ホワイト・ベースのことは調べられる限り調べたから、メインクルーの名前ぐらいは把握しているさ。アルテイシアのこともあったし、何より君に興味があったからな。アムロ・レイの経歴なら年表が書けるくらい詳しいぞ」
そう言ってシャアが語りだした『アムロ・レイの経歴』はアムロ自身すら「そう言われれば、そんなこともあったな」というようなことまで含まれていて、アムロを唖然とさせる。
「……そんなことまでよく調べたな」
「ほとんどはマスコミからの情報だぞ。それに私が独自に調べた情報を足して、アムロファイルを作ってある」
一歩間違えれば―――いや、既にもう立派なストーカー発言だが、嫌な気はしなかった。それに、自分も(シャアほどではないが)シャアのことは出来る限り調べたのだから、お互い様というやつだ。だから、シャアに知られるのは構わないのだが―――
「マスコミは僕のプライベートをどこまで報じたんだ?」
今更ながら気になる。
「一年戦争終結直後は、それは凄かったぞ。見なかったのか?」
逆にそう問われても、その頃のアムロは間違ったニュータイプ像ばかりが報じられる中、その誤解を解くことに必死で(結局誤解を解くことはほとんど出来なかったが)自分のプライベートがどのように報じられているかなんて興味も関心もなかったのだ。素直にそう口にすれば、
「今度、私のアムロファイルを見せてやろう。中には間違った報道も沢山あっただろうから、訂正してくれると助かる」
冗談交じりの口調でシャアが言う。
「間違った報道ね。例えば?」
「そうだな。実はアムロ・レイは五歳の時にテスト飛行で始めてガンダムに乗った……とか」
「それは酷いな。僕が五歳の頃なんて、まだガンダムどころか連邦軍ではモビルスーツの開発すら始まっていない」
ガンダムのパイロットはエスパーだった―――なんて見出しの記事は沢山見たが、歴史的事実を無視した捏造記事には呆れればいいのか笑えばいいのか分からない。
「貴方が持ってるファイルの中にいるアムロ・レイは僕とは別人かもしれないぞ」
苦笑交じりのアムロの台詞に、
「だから、現在進行でファイルの内容を訂正しているところさ」
シャアは笑って答えたのだった。
▶0087 vol.4
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
アーガマでブライトと思わぬ再会を果たしたアムロだが、そのブライトとアムロが落ち着いて話しを出来る機会はすぐには訪れなかった。テンプテーションの艦長としての任務が残っている上に、今後の身の振り方についてアーガマのメインクルーやエゥーゴ上層部と何かと話しをしなければならないブライトは多忙であり、アムロはアムロで正体がバレてしまったことについて各方面にフォローをしなければならなくなったからだ。最優先でフォローしなければならない相手と話すことが出来たのは、テンプテーションの救出から半日近くが経ってからだった。カミーユと話をするタイミングを窺いつつデッキでテンプテーションの解体や出撃したモビルスーツのメンテナンスをしていたアムロに、カミーユの方から近づいて来たのである。
「今いいですか?」
カミーユが声を掛けてきた時、アムロの手には工具が握られていたが「こっちはもういいから、行ってやれよ」と言ってくれたアストナージに後を任せてデッキを後にした。どこで話しをしようかと問うアムロに、最初からそのつもりだったのか迷うことなく
「僕の部屋で」
とカミーユが応じる。
「メカニックの人達は態度変えてないんですね」
部屋に着くまで沈黙を覚悟していた(むしろ部屋についてからカミーユにどう話しを切り出そうかと思案していた)アムロは、デッキを出てすぐ口を開いたカミーユに驚き、同時に安堵した。カミーユは思ったよりずっと落ち着いているようだ。
「最初は妙な敬語を使われたり余所余所しい態度を取られたりしたけど、止めてくれと頼み込んだんだ」
一年戦争の英雄であり大尉という階級にあるアムロに対して、デッキクルーも今後の接し方を迷っていたが、これまで通り接して欲しいとのアムロの言葉を案外すんなりと受け入れてくれた。
「英雄だ大尉だって言っても、そんな貫禄がないからね僕には」
おどけて付け加えれば、
「確かに。僕もすっかり騙されました」
カミーユが苦笑を返す。『騙された』という台詞にアムロはドキリとしたが、カミーユの声音は案外軟らかかった。だが、それっきり黙りこんでしまったカミーユから感情を窺うことは出来ない。シャアが危惧しているほど、アムロとカミーユの間にニュータイプ同士の共鳴や共感が成り立つ訳ではないのだ。そもそも、ああいうことは『ここぞ』という場面で発揮されるものであって、ニュータイプ同士なら常に言葉無しでコミュニケーションが成り立つことなど有り得ず、今も口調や表情、態度から思ったよりずっと落ち着いていると感じ取るのがせいぜいである。
「今からする僕の話しをアムロ・レイではなく、仲良くしてくれた友人のディーとして聞いて欲しいんです」
部屋に入って、最初に言葉を発したのもカミーユの方だった。その方が本音をぶつけてくれるだろう。アムロにとってもカミーユの提案は願ったり叶ったりだ。
アムロの気持ちを汲み取ったのか、カミーユは返事を待つことなく話し始めた。
「グリーンオアシスにいた頃、僕はアムロ・レイやブライト艦長に憧れてた」
一年戦争の逸話の数々に心を躍らせ、ホワイト・ベースのクルーに憧れ、アングラで発行された本や雑誌まで探して読み漁った。あの日も、ブライト艦長のテンプテーションが入港してくると聞いて宇宙港まで行ったところを、エゥーゴのMKU強奪作戦に巻き込まれたのだ。
「でもアーガマに乗ってからは、何かと言えばアムロ・レイを引き合いに出されて比べられて、アムロ・レイのことなんか大嫌いになったんだ」
みんながアムロ・レイと同じ才能があるのだからパイロットになってガンダムに乗るべきだ、と口を揃えて言う。言われるたびに反発して、どんどんアムロ・レイが嫌いになっていって、逆に、嫌なら乗る必要は無いと言ってくれたディーに対する信頼と友愛が深まっていった。だから、そのディーが実はアムロ・レイだったと知らされたとき、騙されていたことが悔しくて悲しくて―――
「でも、どこかで納得もしてた」
きっと心のどこかで、ディーは他の人とどこか違うと感じていたのだろう。
「ディーが僕に、ガンダムの乗らなくても良いって言って
くれたのは、僕にはアムロ・レイのようにガンダムを乗りこなすのは無理だと思ったから?」
「それは違う」
カミーユの口から『大嫌いになった』と言われたときにも表情すら変えることなく話しの続きを促したアムロが、初めて口を挟んだ。
「むしろ逆だよ。カミーユなら僕以上にガンダムを乗りこなしてしまうんじゃないかと思ったから、自分の意思でないなら乗らない方が良いと思った。カミーユには僕のような思いをして欲しくなかったんだ」
アムロの言う『僕のように』の真意は、今のカミーユには理解出来なかった。それでも、アムロがカミーユのことを思って言ってくれていたのだということだけは解かった。
「さっきも言った通り、いろんな本や雑誌であなたのことを読みましたけど、アムロ・レイがこんなにお人好しの世話焼きだなんて、どこにも書いてありませんでしたよ」
自分の中で吹っ切れたのか、表情を軟らかくしたカミーユに、
「それはそうだろう。お人好しの世話焼きなんて初めて言われた」
苦笑を浮かべたアムロが肩を竦めて応じる。
「そうですか? 僕を特別扱いしてくれてるって自惚れたいところですが、アムロさんの『特別』は僕じゃないですよね」
ディーがアムロ・レイだと知った時、カミーユはアーガマで囁かれているあの噂は真実なのだと確信した。そして、その噂の主がアムロにとって特別なのは当然だとも思った。
カミーユの指摘に一瞬ドキリとしたアムロはうろたえたかのように視線を扉の方へと外したが、カミーユが言う
『特別』にそういう意味は含まれていないようだ。
「……確かに、あの人は特別だね」
そう認めながらも、どう特別なのか言及されることは避けたいアムロは、カミーユに視線を戻しながら速やかに話題を軌道修正する。
「四年前にある人から、自分にガンダムを乗りこなすのは無理なんじゃないか、自分は乗らない方が良いんじゃないかと相談されたことがある」
それはカミーユの気を惹くに充分の話題だった。
「その人も僕みたいな子供だったんですか? やっぱりその時も、嫌なら乗らない方がいいって言ったんですか?」
矢継ぎ早に問い掛ける。
「いや。その時は、君がガンダムに乗るべきだと言ったよ」
「そうなんですか?」
「彼はカミーユのような未成年の民間人じゃなく訓練を
受けた軍人だったし、なにより彼の本心はガンダムに乗りたがっていたからね」
「ああ、それは……当然ですよね。ガンダムはパイロットなら誰だって憧れる機体だし」
納得した様子のカミーユに、アムロは続く言葉を飲み込んだ。倒したい相手がいる―――コウがそう言ったからこそ、あの時アムロはコウの背中を押したのだが、今のカミーユにそれを言っても仕方がない。
「カミーユも、もうガンダムを……アーガマを降りる気はなさそうだね」
人が戦う理由はそれぞれで、カミーユが戦うことを決めた理由もカミーユだけのものだ。
「戦争は好きじゃないですけど、アーガマの人達には良くしてもらったし、ティターンズの遣り方を知った今、奴らを許せないって」
カミーユが気持ちを決めたのなら、これ以上彼を止めることは出来ないし、止める気も無かった。
「なら最後にもう一度だけ、僕の言うことをアムロ・レイの言葉じゃなく、カミーユの友達のディーの言葉として聞いてくれるか?」
神妙な表情で頷くカミーユにアムロが言う。
「この先、戦いを続けていけば辛いことが沢山あると思う。
その時は、一人で思い悩まないで相談して欲しい。アーガマのクルーの誰かとか、友達のディーとか……アムロ・レイにでも」
▶0087 vol.3
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
グラナダでの戦闘でカミーユはますますニュータイプ能力とパイロットとしての適性を示して見せた。旗艦(アーガマ)を守っていたエマ・シーンの危機をいち早く察し、エマ(リック・ディアス)と旗艦(アーガマ)を救ったのだ。
そして、正式なアーガマのクルーになることは拒否していたカミーユ自身も、エマを助けたことで何か吹っ切れたのだろう。パイロットとして扱われることを受け入れ、褒められれば満更でもない反応を見せる。
それならそれで良いとアムロは思った。カミーユがそう決断し覚悟を決めたのなら。ただ、それならそれで、このままではいけないとも思った。
宇宙世紀0087.05.02。カミーユが初めてガンダムMKUに乗ってから、ちょうど二ヶ月が経っていた。
「カミーユにはきちんと名前を名乗った方が良いと思わないか?」
ふいの問い掛けにシャアはそれまでの動きを止め、怪訝な表情(かお)で首を捻る。その台詞は形こそ疑問系であったが、既にアムロの中では気持ちが固まっているように聞こえたからだ。
「それは君の? それとも私の方か?」
少々意地の悪い口調になったと自覚はあった。アムロがカミーユを構う理由は理解出来るが、理性で理解出来ることと感情が納得出来るかどうかは別問題、とはよく言ったものである。
「僕のに決まっているだろう。貴方が本名を名乗ってどうする」
相手の口調に感化されたのか、アムロの言い方にも棘があった。一瞬、二人の間に緊張を孕んだ空気が流れたが、シャアもアムロも今ここで相手と喧嘩をしたい訳ではない。
「そうだな。私の場合、本名より偽名を名乗っていた時間の方が長いからな」
先に折れたシャアが冗談めかした口調で言えば、
「四つも名前を持っていると大変だな」
アムロも笑いながら揶揄する。
顔を見合わせて笑った後、シャアは表情を改めた。アムロが名前を名乗った方が良いと考えた切っ掛けに思い至ったのだ。
「エマ・シーンのことを気にしているのか?」
エマの口から『シャイアンでアムロ・レイに会ったことがある』と聞いてから、アムロは極力エマと顔を合わせないようにしていたが、同じ艦のパイロットとメカニックマンでは避けるのにも限度がある。
「彼女は勘も記憶力も良い。こうやって変装していても、記憶の中の『アムロ・レイ』とメカニックマンのディーを結びつけるのは時間の問題だろう」
一応眼鏡とウィッグで変装してはいるものの、アムロとしてはエマがいつ自分の本名に気付くか気が気ではない。
「バレたらバレた時のことだ。その時に対処すれば良い」
シャアの言葉にも首を横に振る。
「他のクルーには、ね。だけどカミーユにはその前に僕の口からきちんと伝えておきたいんだ」
「やはり、カミーユは特別……か」
先程のように棘はないが多少なりとも苦み成分を含んだ呟きに続けて、シャアはアムロに問い掛けた。
「確かにアムロが言う通り、今は兄のように君を慕っているだけだろう。だが、君が『アムロ・レイ』だと知ったらカミーユの気持ちは変わると思わないか?」
「それは変わるだろうな」
断言するように応えたアムロは、シャアが口を開くより前に続ける。
「だけど、貴方が想像しているようにじゃない。むしろ反対方向に変わると思うぞ」
アムロとララァの出逢い(ニュータイプ同士の共感)を見せつけられたシャアは、メカニックマンのディーがアムロ・レイだと知った時カミーユがアムロに対して『特別な感情』を抱くのではないかと危惧しているらしいが、アムロに言わせればそれはシャアの思い過ごしだ。
カミーユは『メカニックマンのディー』を慕っている。周囲の人間が何かにつけてカミーユをアムロ・レイと比べ、ニュータイプを便利で優秀なマシンのように扱う中で、ディーは「無理してパイロットになることはない」と、「ニュータイプは戦うための道具なんかじゃない」と言われたことが嬉しかったからだ。
だが、そのディーこそがカミーユが比べられるのを嫌がっているアムロ・レイだと知ったら―――
「カミーユは裏切られたと思うだろう。傷付いて……恐らく僕を嫌いになる」
視線を伏せたアムロの言葉を聞いて、シャアは問い詰めるように言う。
「本名がバレる前に自分からカミーユに名乗ろうとするのは、どこまでもカミーユのためだけか?」
痛いところを突かれてアムロは一瞬息を詰めたものの、すぐに諦めた様子で肩を竦めた。自分がシャアのことなら大抵のことは分かるように、相手にも自分のことは大概見抜かれてしまうらしい。
「カミーユを傷つけたくないのが七割、これは本心だぞ」
残りの三割については追求するなと無言で訴えたアムロだったが、シャアは許してくれそうになかった。同じく無言で、視線だけで続きを促され仕方なく白状する。
「エゥーゴの一クルーとして、パイロットとして安定してきたカミーユのコンディションを乱したくないという打算が二割。後の一割は―――」
自分でアムロを追求したにもかかわらず、続きは聞きたくないとシャアは思った。
「慕ってくれているカミーユに嫌われるのは辛い……個人的なエゴだな、これは」
ほぼ予想通りの答えを耳にして、心の奥がズキリと痛む。それが嫉妬であることは自覚していた。アムロはああ言ったが、シャアにとってニュータイプ同士の出逢いはトラウマに近い。
シャアは思い出したように、アムロの中に埋めていた指でその内部をきつめに抉った。
「―――っ……」
突然与えられた刺激にアムロは息を詰める。だが、抵抗や苦情の言葉を口は、シャアから先制攻撃を食らって不発に終わった。
「抗議は聞かないぞ。そもそも事の途中で突然会話を持ち掛けたアムロが悪い」
確かにシャアの言う通りだ。
キスをしながら縺れるようにしてベッドに倒れ込み互いの服を脱がせ合って、その身体に触れた。高まった熱で理性が溶け出す頃合いを見計らって、シャアはアムロの後孔に指を差し入れ、そこを解す。初めての時は屈辱と恐怖と痛みに悲鳴を上げたアムロの身体も、回数を重ねて慣れてきたのだろう。最近では指一本からでも快楽を拾い出すようになった後孔は、シャアの指が内部の敏感な場所に触れるたび無意識に指を締め付けた。と同時に小さな声を零したアムロは、照れくさそうに目元を赤く染めて視線を逸らせる。
アムロの反応に気を良くしたシャアも、自身の下半身に熱が集まるのを自覚した。一度指を引き抜き、更に広げるため、今度は二本の指を差し込む。身体の力を抜くためか、アムロが軽く息を吐いた―――そんな時、突然アムロが先程の会話を切り出したのである。
▶0087 vol.2
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。シャアとアムロの関係がZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
アーガマでクワトロ・バジーナ、ドゥエ・ブルーノと名乗っている二人は、二人きりになると別の名を呼び合う。互いに呼び合うその名前の一方は本名だが、もう一方はそれすらも偽名だ。クワトロという偽名の通りその名前は彼の四つ目の名前で、彼の本名がエゥーゴにとって意味を持つのはもう少し先の話である。
戦艦という限られた、しかも至る所にカメラが仕掛けられた空間の中で、二人きりになれる場所や時間は限られている。確実に二人きりになれるのは、一方のプライベートルームにもう一方が訪れる時。
その夜も、シャアはアムロの部屋を訪れていた。
「地球に人を降ろす?」
アムロの言葉にシャアは頷いて見せる。
「ブレックス准将の意向でな。ジャブローの様子を探らせたいらしい」
シャアはこの作戦にはあまり乗り気ではないようだ。まあ、それも当然だろう。現在のジャブローはティターンズの本拠地なのだ。そんなところにエゥーゴの人間を送り込むとなれば、危険な任務になるのは明白である。
「……そう言うことなら、僕が行こうか?」
アムロがそう申し出たのは、何も自分が進んで危険な任務を引き受けようという英雄的思考によるものではなく、一年戦争中やその後を含めジャブローには何度か行ったことがあるため、他のクルーが行くよりは危険が少ないと思ったからだ。一応、人より多少勘が働く自負もある。
だが、アムロの申し出はシャアによってすぐさま否定された。
「馬鹿なことを言うな」
「どうして、馬鹿なことなんだ? ジャブローなら何度か行ったことが―――」
「この作戦の人選は既に終わっている」
その人選にも賛成出来ないが、アムロをジャブローにやる気は微塵もない。シャアの口調からは、彼のそんな気持ちが伝わってきた。
「その人選で選ばれた人物と僕と、作戦の成功率はどちらが高いと思うんだ?」
シャアの顔を見つめながら、アムロが静かに口を開く。
「それは、君だろうな」
そこはシャアも素直に認めた。
「だが、今の君はメカニックマンのドゥエ・ブルーノだ。その君が敵基地に潜入すると言っても、ブレックス准将はともかくヘンケン艦長は納得しないだろう」
それとも本名を名乗るか?―――そう問われれば、アムロとしては返す言葉がない。
「それに、カミーユのことはどうする?」
ダメ押し、と言うよりも今のアムロにとってはこちらの言葉の方が重かった。恐らくこのままガンダムMKUのパイロットに決まるであろうカミーユは、両親のこともあって精神が不安定なままだ。
「分かったよ。確かに、貴方の言う通りだ」
今、艦を降りることは出来ないと折れたのはアムロの方。シャアは安堵の表情を浮かべたものの、少々ばつの悪そうな表情に変わる。
「もっともらしいことを言ったが、本音を言えば、私はアムロをジャブローに行かせたくないのだ」
駆け引きの重要性は熟知していて、どちらかと言えば本人もそれは得意な筈なのに、妙なところで正直なシャアにアムロは思わずクスクスと笑ってしまった。
いや、絶妙なタイミングで抱きしめてくるところを見ると、もしかしてこれこそが駆け引きなのかもしれない。抱きしめられたシャアの腕の中でそんな風にも思うと、もう少しこの会話を続けてみたくなる。
「なら、最初から素直に『側に居ろ』って言えば良かったのに」
「そんなことを言っていたら、逆に君は意地でもジャブロー行きに立候補したのではないか?」
シャアは少々恨めしげな視線をアムロに送った。
アムロとは夜の時間を共にする関係ではあるが、なし崩し的な形で今の関係になったようなもので、二人の関係に明確な呼び名を付けることも出来ず、アムロから具体的な言葉をもらった訳でもない。近頃は(場所さえ弁えれば)拒否されることもなく、アムロの方から誘ってくることすらあるぐらいだから受け入れてくれているのだろうとは思っているが、アムロを独占したり、ましてや自分の側に束縛出来るなどとは思っていなかった。
―――『側に居ろ』などと言おうものなら、逃げ出すのではないか?―――
シャアとしてはアムロにそう言いたかったのである。
「確かに束縛されるのは好きじゃない」
ふいっと視線を逸らせてアムロが言った。連邦軍によってシャイアンの屋敷に軟禁され、ようやくそこから抜け出してきたのだ。それを知っているだけに、アムロを束縛するような言葉を口にすることは出来ない。ここはアムロを説得出来ただけで良しとすべきだろう。
ところが、そう自分に言い聞かせてこの話題を終わらそうとしたシャアに、アムロは逸らせていた視線を戻した。
「でも、それは相手と場合によるんじゃないか?」
意味深な表情と疑問系で口にされたアムロの台詞を耳にして、シャアが瞠目する。
「……それは、相手と場合によっては束縛されてもいいと理解して良いのだな?」
その『相手』に自分が含まれるのかどうか、シャアとしては非常に気になるところだが、その答えを問う勇気はない。
「今、君をこの場で束縛するのは許されるだろう?」
代わりに腕の中に閉じ込めたアムロをベッドに押し倒し、取りあえず『場合』の方で束縛することにした。
▶0087 vol.1
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。一応、前作未読でも読んで頂けるよう書いたつもりですが、前二冊の展開によりシャアとアムロの関係がアニメや映画のZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということですが、話は完全にアムロとシャアの物語になっています。その二人贔屓な話になっていますので『Zの主人公はカミーユでないと』と思われる方、また『0083 STARDUST MEMORYのコウやガトーに思い入れの深い方』に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
『クワトロ大尉から連絡。ガンダムMKUを二機捕獲してアーガマに帰投するそうです』
オペレータ報告を受けてアーガマのブリッジが歓声に沸いた。その情報はすぐにモビルスーツデッキにも伝えられ、メカニックマン達が慌ただしく受け入れ準備を始める。
「MKUか」
「楽しみだな」
「どんな機体なんだ」
受け入れの準備を進めながらも、メカニックマン達の間に流れる空気は、どこかしら浮かれていた。メカニックマンなら誰だって、新型の機体には興味をそそられるものだ。それがガンダムと尚更である。
「オレ、あのアムロ・レイが乗ってたRX78のマグネットコーティングに、ちょっとだけ関わってたことがあるんだぜ」
まだ若いがメカニックマンの間でも中心的な存在であるアストナージが、少し興奮気味に言った。
「へえ? そうだったんだ……」
アストナージの近くで作業をしていた男が、少し驚いた表情で一瞬手を止める。標準よりやや小柄な体型と童顔でアストナージより更に若く見えるが、アストナージと同世代の彼も、優秀なメカニックマンだ。
「とは言っても、実際間近でガンダムを見るのは初めてなんだけどな」
マグネットコーティングの研究に携わってはいたが、ガンダムにマグネットコーティングを施す際には立ち会えなかったのだと悔しそうに言ったアストナージが、側にいた男に向かって
「ディー、お前は?」
と問い掛ける。
「え? ―――ああ、僕も初めて……かな」
ディーと呼ばれた男は、何故か少し歯切れの悪い口調で答えた。アストナージは少しばかり不思議そうな表情で話しを続けようとしたが、
『リックディアス、間もなく着艦します』
ブリッジのオペレータから再び指示があり、雑談はお開きになった。
「すげーな」
「これがガンダムかあ」
三機のリックディアスに伴われた二機のガンダムMKUにメカニックマンが殺到する。メカニックマンの興味はあくまでもその機体であるため、ガンダムMKUのコクピットから出てきた見慣れぬ少年に
「誰だ? あれ」
と不審そうな視線を送っても、その少年の存在にそれ以上注目する者はいなかった―――一名の例外を除いて。
「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな」
先に着艦したリックディアスのコクピットから降りたクワトロが、少年に声を掛ける。
「カミーユです。カミーユ・ビダン」
「そうか。では付いて来るといい、カミーユ君。この艦の艦長に紹介する」
名前を名乗る瞬間少し躊躇する様子を見せたカミーユに気づいたものの、そこを追求することはせずクワトロはそう言って相手を促すと、足早にモビルスーツデッキを立ち去ろうとした。だが、ふと足を止め
「君も一緒に来てくれ」
と、先程ディーと呼ばれていたメカニックマンに呼び掛ける。出撃していた機体が戻ってきた今、メカニックマンにとっては猫の手も借りたいほど忙しい時間であるためディーは応じるべきか迷ったが、
「ここは引き受けるから、行ってこいよ」
アストナージに背中を押されて心を決めた。
「悪い。なるべく早く戻るから」
「いいって。それより残念だったな。せっかくガンダムが目の前にあるって言うのに」
揶揄(からか)うようなアストナージの言葉に
「僕の分も、整備するところ残しておいてくれよ」
ディーも軽口で応じる。そしてディーは、クワトロとカミーユと名乗った少年の後を追いかけて行った。
▶0084−0087
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0084〜0087が舞台のシャア×アムロ本です。
2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』の続編となっております。前作を読んでいらっしゃらない方にも読めるように書いているつもりですが、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
宇宙世紀0084。この年の年明けは極一部の者達にとって非常に慌ただしく始まった。
0083の年末、地球連邦軍ジャミトフ・ハイマン准将の提唱により一つの組織が結成された。ティターンズと名付けられたその組織はジオン軍残党の掃討を名目に設立されたが、その切っ掛けになった『デラーズ紛争』の戦後処理もまだ終わっていない。
そんな訳で、ティターンズの立ち上げに携わる者達と、デラーズ紛争の戦後処理を担当する者達にとって、宇宙世紀0084はニューイヤーを祝う余裕などなく始まったのだ。
そんな頃、その『デラーズ紛争』によって人生を変えられた者達が、シャイアンのとある豪邸で世の中の流れに注目していた。
一人はデラーズ紛争の首謀者の一人として、ソロモンの悪夢として有名なアナベル・ガトー。デラーズ紛争を死に場所と決めていたガトーだが、本人曰く「また死に損なった」彼は、デラーズ紛争が世界にもたらした結果を見届けることにしたらしい。
そのガトーを死に損なわせた主犯のコウ・ウラキは、デラーズ紛争終盤のガンダム三号機による無断出撃と、敵前逃亡、反逆罪等の罪で連邦軍に指名手配される身になってしまった。その彼は、ティターンズの結成に複雑な思いを抱いている。デラーズ紛争で共に戦った仲間や友人が、ティターンズのメンバーに組み込まれているという話しを聞いたからだ。
ガトー救出の共犯にして、かつて『赤い彗星』と呼ばれ連邦軍から恐れられていたシャア・アズナブルは、デラーズ紛争のお陰で予定よりも早くアクシズを出ることになった。ガトーを連れて一度アクシズに戻る予定だったのだが、その本人に拒否をされた上、連邦軍が新たな動きを見せている今、このままアクシズに戻る訳にもいかなくなったのである。
そして、最後の一人。一年戦争の英雄にしてニュータイプのプロトタイプと呼ばれるアムロ・レイは、デラーズ紛争によって『人生を変えられた』と言うよりも『強引に巻き込まれた』と表現する方が正しい。三人の避難所として自宅に押しかけられたせいだ。
だが、四人は後悔していない。ガトーは、生き残ってしまったことに対して多少なりとも罪悪感めいた思いを持ってはいたが、救出された時に負っていた大怪我がほぼ癒える頃には、生きる気力を取り戻していた。
そんな四人がシャイアンの邸宅での奇妙な共同生活に慣れてきた頃のこと。
「近頃、大佐の姿をお見かけしないようだが」
律儀な性格らしいガトーは、ジオン時代の階級差を気にしているのかシャアに対しては丁寧な態度と言葉遣いを崩さない。最初はアムロにも同じような態度で接していたが、それはアムロが固辞したためアムロに対する態度は砕けたものになっている。
「何だか色々暗躍しているみたいだよ。夜は時々帰って来るけど……」
言いかけてアムロは小さく舌打ちし口を閉ざした。『帰って来る』だなどと言ってしまった自分は、シャアが側に居る生活に慣れすぎてしまったらしい。
アムロのそんな反応をどう思ったのか、
「不躾なことを聞いても良いだろうか」
そう前置きをしたガトーはアムロの表情に視線を向けながら問い掛けた。
「君とシャア大佐は、どのような関係なのだ? 世間で言われている一年戦争のライバルには見えないが……」
「本当に不躾な質問だね」
苦笑したアムロは少し考えるように首を捻り、逆にこちらから問い返す。
「ライバルに見えないと言うなら、どういう関係に見えるって?」
今度はガトーが困惑の表情を浮かべた。不本意ながら麻酔で眠らされている間にこの屋敷に運び込まれ、伝説のパイロットとの初対面は妙なシチュエーションだったのだ。
その時は、初めて実物を見る『アムロ・レイ』があまりにもイメージと違うことに驚いて二人の関係にまで思考が及ばなかったが、確かあの時、コウは『二人がセックスを―――』と言いかけた。その言葉は、すぐ後に入ってきたアムロ自身が否定をしたが、シャアの方は悪びれた様子もなくその後も事ある毎にアムロに妙な絡み方をしている。かつてのライバルをパイロットとして高く評価しスカウトしているのかとも思ったが、どうもそれ(・・)だけではないらしい。アムロに絡んでいる時のシャアは、ガトーが知っている『赤い彗星のシャア』とはこれもまた、あまりにイメージが違うのだ。
「…………恋人同士……とか」
実のところ、軍の人事や戦闘に際して影響を及ぼさない限り、他人の人間関係などにさほど興味を示さないガトーが二人の関係に関心を持ったのは、かつて敵軍として戦いそれぞれの軍のエースパイロットであった筈の二人が、しかも同性である二人が、所謂『恋人同士』のように見えたからである。
恋人同士に見えたと言っても、二人が目の前でいちゃついていた訳ではない。むしろ、アムロはシャアに絡まれる度、迷惑そうな態度であしらっているようにさえ見えた。それでも、二人の間にただの関係ではない空気感があるのだ。『肌を重ね合った者同士の気安さ』とでも言うのだろうか。
一方、アムロはガトーの言葉を聞いた途端真っ赤になったかと思うと、次の瞬間真っ青になった。そしてまた真っ赤になる。
「ど…ど……どうやったら、僕たちがそんな関係に見えるんだっ!?」
胸ぐらに掴みかからんばかりの勢いでアムロがガトーに迫った。
「どうやったら――と言われても困るが、大佐は随分君を気に入っておられるように見えるからな」
間近に迫るアムロの顔から視線を逸らせることなくガトーが言う。そして付け加えた。
「既に身体の関係も―――」
ガトーの台詞の途中で、真っ赤だったアムロの顔が再び真っ青に変わる。
「……ど……どうして知っているんだっ!? まさかシャアの奴が―――」
今度は本当に胸ぐらを掴んでアムロがガトーを締め上げたため、ガトーの台詞は途中で途切れた。相手の言葉を遮った自分の言葉こそが、相手の推測を思いきり肯定しているのだと気付かないほど動揺していたのだろう。
ガトーはアムロに胸ぐらを掴まれたまま、軽く肩を竦めて続けた。
「大佐は何もおっしゃらないが、初めて会った時にコウが言っていたではないか。『二人がセックスを―――』と」
「あの時はやってないっ!」
「………『あの時』は?」
「あ……」
さすがにアムロも自分のミスに気付いたが、誤魔化そうとしてももう遅い。
「忘れろっ! 今のは忘れてくれ!」
またまた真っ赤な顔になったアムロは、ガトーの頭の中からたった今の記憶を消そうとでもするように胸ぐらを掴んだまま揺さぶったが、アムロとガトーの体格差は歴然でアムロが必死で力を込めてもガトーの身体も頭もほとんど揺れたりはしなかった。それがまた悔しいのか更にムキになって、今度は胸ぐらではなく直接ガトーの頭を掴む。
「忘れろっ! 忘れてくれ! よし、忘れたな」
そんなことで記憶を消せる訳がないことぐらいアムロだって承知しているだろうに、同じ言葉を繰り返した。ガトーを洗脳すると言うよりは、どちらかと言うと自分自身を暗示に掛けようとでもしているかのような口調。
そんなアムロの様子を見て、ガトーは久しぶりに腹を抱える勢いで笑った。これが、一年戦争の終盤、ジオン軍を震え上がらせた『連邦の白い悪魔』なのだろうか。たいした誘導尋問をした訳でもないのに、自分の方から墓穴を掘って狼狽える。その狼狽え方がまた可愛らしいのだ。
〔誰かに似ている…?〕
そう思った瞬間ガトーの脳裏に浮かんだのは、何が気に入ったのか犬のように自分に懐いてくるコウの顔。
とは言っても、アムロとコウはむしろ似ている所を探す方が難しいほどどこも似ていない。容姿も性格も経歴も。ニュータイプのプロトタイプと言われるアムロに対して、コウはそのような兆しもない。共通点と言えば、連邦の軍人でガンダムのパイロットだったことだが、このまま行くとコウは連邦軍を辞めることになるだろうから、その共通点すら無くなってしまう。
それでも、あの一瞬、二人が似ているとガトーは思ったのだ。それと同時に、シャアがアムロを構う気持ちが分かる気がした。
「君は可愛いな」
思わず本音を零してしまったガトーの言葉に、
「………はあ?」
アムロは訳が分からないと言いたげに眉を顰める。だが勘の良いアムロは、ガトーの台詞が自分を通して別の人間に向けられているのだと気付いた。
「ああ、なるほどね。そう言うことか」
ニヤリと少々人の悪い笑みを浮かべてガトーの顔を覗き込む。
「そんなにコウが可愛いんだ?」
アムロの逆襲開始だ。
「な……何を言い出すっ!? どこからコウの名前が出てくるのだ」
らしからぬ様子で今度はガトーが動揺を見せた。
「隠しても無駄だよ。僕には何でもお見通しだからね」
アムロが自信ありげに言えば、ガトーはますます動揺した様子で顔を赤らめる。常は誤解されて鬱陶しいばかりだが、今回はニュータイプに対する誤解をせいぜい利用させてもらおう―――内心でアムロがそんなことを考えているとも知らずに。
「………ニュータイプとは、そのように人の心が読めるものなのか?」
低い声で唸るガトーを見ると、もう少し揶揄(からか)ってやりたい気持ちと、あまり誤解させるのもマズイという二種類の思いが脳裏を掠める。自分とシャアの関係からガトーの興味を逸らせるという元の目的は達したようだし、どうしたものかと考えるアムロの顔に、ガトーが探るような視線を向けた。アムロがガトーの頭を両手で掴んだままの状態だったので、二人の距離はかなり近い。
そんな時、リビングのドアが勢いよく開いた。
▶メモロス
《カテゴリ:単独で読める本@既刊詳細》
■1stガンダムが舞台のアムロ記憶喪失ネタです。TVアニメ設定と映画設定を微妙に混ぜつつ捏造満載なので、細かい設定へのツッコミはナシで気軽に楽しんで頂ければ幸いです。
■文中には男性同士の性描写・複数人数による暴力表現が含まれます。直接的な表現はないため年齢制限は設けておりませんが、苦手な方はご注意下さい。また、この話はあくまでもフィクションであり、そのような行為を肯定するものではありません。
■サンプル
サイド6は中立サイドであり、連邦軍もジオン軍も一切の戦闘を禁じられている。とは言え、常日頃生死を賭けて戦っている兵士同士の遺恨が消える訳ではなく、体面や体裁を気にする士官クラスの人間はともかく下っ端の兵士達の小競り合いは日常茶飯事だった。
そんな日常茶飯事の小競り合いにアムロが巻き込まれる羽目に陥ったのは、確かに中立サイドだという油断もあったのかもしれない。だが、原因の大半はアムロが別のことに大きく気を取られていたことにある。ニュータイプと言っても所詮はそんなものなのだと後にアムロは思ったが、巻き込まれたその時はそんなことを冷静に考えるほどの余裕などある筈がなかった。
「父さん!」
買い出しに出掛けてきていたサイド6の街で、アムロは父親の背中を追っていた。
人混みの中でほんの一瞬チラリと見かけただけだが、間違いない。自分のことをエスパーだなどとは思わないが、人より少しばかり勘が良い―――くらいのことは自覚していた。
「父さん!」
遠ざかる後ろ姿に向かって呼び掛けたが、街の喧噪に紛れて声は届かなかったらしい。サイド7で自分がホワイトベースに乗り込むのと入れ違いに姿を消した父がどうしてサイド6にいるのかは分からないが、ここで見失ったら二度と会えないかもしれない。その思いが、アムロから周囲への注意力を奪っていた。
「―――っ」
擦れ違いざま相手と肩がぶつかって、アムロは軽く息を呑んだ。とは言え肩を押さえて蹲(うずくま)るほどの衝撃でもなく
「すみません」
軽く謝罪してすぐにまた父の後を追おうとする。だが強い力で腕を捕られ、振り向いた瞬間アムロは自らの失敗を悟った。
目に入ったのはジオンの軍服。ここが中立コロニーとは言え、相手は敵兵でしかも複数だ。モビルスーツ戦ならこの程度の数の敵を恐れることもないが、生身―――しかも銃すら携帯していないアムロは、白兵戦の専門訓練を受けた訳でもないただの少年である。あっという間に周囲を取り囲まれ、退路を断たれて腕を捕られた。
〔どうしよう〕
こんな時、強気に「放せ」と言って腕を振り払えば良いのか、それとも「放して下さい」と低姿勢で頼んだ方が良いのか、或いは大声で周囲に助けを求めるべきなのか……それすら判断に迷う始末である。
結局のところ、思いついた対処法のどれかを実戦していたところで、こんな時は強気の挑発も弱気の哀願も相手を喜ばせるだけであり、助けを求めた所で見て見ぬふりをされるのがオチだ。事実、複数のジオン兵に引きずられるようにして路地裏に連れて行かれる連邦軍の少年兵の姿を見ても、そんな光景など日常茶飯事なのか、或いは関わりたくないのか、道行く人達は気に留める様子もなく通り過ぎていく。時折アムロに気の毒そうな視線を向ける者もいるが、やはり火中の栗を拾うつもりはないのだろう。慌てて目を逸らせ、足早に立ち去っていった。
「うわっ!」
すっかり人通りのなくなった路地裏で、捕まれていた腕を突然解放されたアムロは、壁に叩き付けられそうな勢いで放り出され尻餅をつきかけた。ギリギリの所で踏み止まったのは、抜群の平衡感覚と反射神経の賜(たまもの)であり、取り囲むジオン兵の中に経験豊富なパイロットでもいれば、相手が優秀なパイロットであることに気付いたかもしれない。
「見かけない顔だな」
「最近ドックに入ってきた木馬の下っ端兵だろう」
「木馬にはあっちこっちの部隊が随分煮え湯を飲まされてるらしいからな。たっぷりと可愛がってやろうぜ」
まさか目の前の少年がその煮え湯を飲ませている張本人だとは思いもしない様子で、男達はニヤついた笑みを浮かべながら口々に言った。
「女ならイイ思いが出来たってのにな」
「男じゃなあ」
「サンドバッグ代わりに殴ってストレス解消でもするか」
ニヤニヤと笑う男達の表情を見るに、サンドバッグの代わりにされるのと『イイ思い』とやらの標的にされるのと、どちらがよりマシ(●●●●)なのか分かったものではない。少なくとも自分が男で良かったなどと喜ぶ気にはなれなかったが、アムロはこんな場合だというのに何故かふとフラウ・ボウのことが心配になった。
〔僕がいつまでも帰ってこないと心配して、一人で探しに来なきゃいいけど〕
以前ホワイトベースを飛び出した時も、単身で自分を探しに来てランバ・ラルの部隊の兵に捕まったことがある。
〔あの時は捕まったのがランバ・ラルの部下だったから良かったけど、こんな奴らにフラウが捕まったら……〕
今は自分の身が危ないと言うのに、そんなことを考えてしまうのは、目の前の恐怖から逃げるための現実逃避だったのか。いや、どちらかと言うとアムロはこんな状況にもかかわらず、何故かあまり恐怖を感じていなかった。この人数の包囲網を突破して脱出する自信がある訳ではない。にもかかわらず危機感が薄いのは、本能が―――ニュータイプの能力とも言われる勘がアムロに危険を告げてこないからだ。
最前線で戦うモビルスーツのパイロットという常に死の危険と隣り合わせの日常を過ごしているせいか、『危険』に対する認識のラインがおかしくなっているのだろうか。しかし、呑気にもそんなことを考えていたアムロは、男達の会話に自分の耳を疑った。
「こいつ、よく見ると結構可愛い顔してやがるぜ」
「どれどれ……おっ、ホントだ」
「男っつってもまだガキだし、女の代わりに使えるんじゃないか?」
「おいおい、オレはそんな趣味ないぜ」
男達は下卑た笑みを浮かべながら、明らかに先程までとは違う視線を向けてくる。サンドバッグ代わりに殴られるのと、どちらがマシか―――などと考えていたことも忘れたように、アムロは真っ青になって後退った。
「へえ、震えてやがるぜ」
アムロの腕を掴んだ男がニヤリと笑う。
「―――放せっ!」
思わずそう叫んで腕を振り払おうとしたアムロの反応は、男達を喜ばせただけらしい。
「可愛いじゃねーか」
「なんかオレもその気になってきたぜ」
そんな趣味はないと言っていた男まで、興が乗った様子でアムロの顔を覗き込んだ。
「放せっ、放せったら!」
男達に押さえ込まれてアムロはジタバタと暴れながら叫んだが、当然ながら男達の腕が緩む筈はなく逃げ出すことも叶わない。
「手っ取り早く脱がせちまおうぜ」
「脱がせるより破く方が早いんじゃねーか」
「ああ、その方が手間が無くていい」
彼らがわざとらしく口に出して言ったのは、ただ単に確認のためか。それとも、アムロを更に脅して怯える様子を楽しんでやろうとでも思ったのか。
いずれにしても、ジオン兵の彼らが連邦軍の制服に遠慮する理由はない。躊躇することなく伸ばされた手が、アムロの身に付けているものを引き裂いた。
服の下から現れたのは、まだ成長途中ながら少年期を脱した瑞々しい肢体。年齢的なものではなく元々の体質なのだろう。体毛が薄く滑らかな肌を目にした男達が、無意識にゴクリと喉を鳴らす。
「たまんねーな」
一番にその肌に触れた男が溜息混じりの声で言った。それに触発されるかのように、男達の手が次々と伸ばされる。
「見ろよ、可愛い乳首してやがるぜ」
「これで胸が膨らんでりゃ最高なのによ」
胸元をなで回す手に胸の先端を摘み上げられて、アムロは悲鳴をあげた。
「こいつ、まだチェリーちゃんなんじゃねーの」
「女の味を知る前に男に犯(や)られるなんて可哀相になあ」
揶揄混じりの笑い声をたてる男達の手がアムロの下半身にも伸ばされたが、アムロにとってそれはただ生理的嫌悪感をもたらすだけのものだ。
「大人しくしてりゃ、お前にもいい思いさせてやるぜ」
ニヤニヤと笑う男の一人が、僅かも反応していないアムロの分身を服の上からゆるゆると撫で上げる。
「ひゃっ―――」
一番敏感な部分に与えられた突然の刺激に、アムロの声が跳ね上がった。どんな状況であろうと、そこに触れられて感じないのは不感症の男ぐらいのものだ。
「や……嫌だーっ!」
嫌がる声やその表情、仕草すらも男達を喜ばせるだけなのだと、そんなことはアムロには分からない。悔しさのあまり涙を浮かべながら必死の抵抗を続けたが、自由を取り戻すことは出来なかった。
「いい声で啼くじゃねえか」
「もう我慢出来ねーっ、下もさっさと剥いちまえよ」
台詞と共に下半身を覆う布にも手をかけられ、絶望的な状況を思い知る。ガンダムに乗れば敵無しのアムロも、生身では非力なただの少年だった。
男達の興奮が頂点に達し、アムロの目の前が絶望で真っ暗になった時―――
「そこまでにしておけ」
男達の背に静かな声が掛けられた。
「せっかくの楽しみを邪魔するとはいい度胸――……」
「自分が可愛かったらさっさと立ち去―――……」
「オレ達に向かって指図しようって―――……」
一斉に振り返った男達は口々に相手を罵ったが、相手の姿を目にした途端息を呑む。言葉は途中で途切れ、先程までの喧噪が嘘のように辺りが静まり返った。
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