▶0084−0087
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0084〜0087が舞台のシャア×アムロ本です。
2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』の続編となっております。前作を読んでいらっしゃらない方にも読めるように書いているつもりですが、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
宇宙世紀0084。この年の年明けは極一部の者達にとって非常に慌ただしく始まった。
0083の年末、地球連邦軍ジャミトフ・ハイマン准将の提唱により一つの組織が結成された。ティターンズと名付けられたその組織はジオン軍残党の掃討を名目に設立されたが、その切っ掛けになった『デラーズ紛争』の戦後処理もまだ終わっていない。
そんな訳で、ティターンズの立ち上げに携わる者達と、デラーズ紛争の戦後処理を担当する者達にとって、宇宙世紀0084はニューイヤーを祝う余裕などなく始まったのだ。
そんな頃、その『デラーズ紛争』によって人生を変えられた者達が、シャイアンのとある豪邸で世の中の流れに注目していた。
一人はデラーズ紛争の首謀者の一人として、ソロモンの悪夢として有名なアナベル・ガトー。デラーズ紛争を死に場所と決めていたガトーだが、本人曰く「また死に損なった」彼は、デラーズ紛争が世界にもたらした結果を見届けることにしたらしい。
そのガトーを死に損なわせた主犯のコウ・ウラキは、デラーズ紛争終盤のガンダム三号機による無断出撃と、敵前逃亡、反逆罪等の罪で連邦軍に指名手配される身になってしまった。その彼は、ティターンズの結成に複雑な思いを抱いている。デラーズ紛争で共に戦った仲間や友人が、ティターンズのメンバーに組み込まれているという話しを聞いたからだ。
ガトー救出の共犯にして、かつて『赤い彗星』と呼ばれ連邦軍から恐れられていたシャア・アズナブルは、デラーズ紛争のお陰で予定よりも早くアクシズを出ることになった。ガトーを連れて一度アクシズに戻る予定だったのだが、その本人に拒否をされた上、連邦軍が新たな動きを見せている今、このままアクシズに戻る訳にもいかなくなったのである。
そして、最後の一人。一年戦争の英雄にしてニュータイプのプロトタイプと呼ばれるアムロ・レイは、デラーズ紛争によって『人生を変えられた』と言うよりも『強引に巻き込まれた』と表現する方が正しい。三人の避難所として自宅に押しかけられたせいだ。
だが、四人は後悔していない。ガトーは、生き残ってしまったことに対して多少なりとも罪悪感めいた思いを持ってはいたが、救出された時に負っていた大怪我がほぼ癒える頃には、生きる気力を取り戻していた。
そんな四人がシャイアンの邸宅での奇妙な共同生活に慣れてきた頃のこと。
「近頃、大佐の姿をお見かけしないようだが」
律儀な性格らしいガトーは、ジオン時代の階級差を気にしているのかシャアに対しては丁寧な態度と言葉遣いを崩さない。最初はアムロにも同じような態度で接していたが、それはアムロが固辞したためアムロに対する態度は砕けたものになっている。
「何だか色々暗躍しているみたいだよ。夜は時々帰って来るけど……」
言いかけてアムロは小さく舌打ちし口を閉ざした。『帰って来る』だなどと言ってしまった自分は、シャアが側に居る生活に慣れすぎてしまったらしい。
アムロのそんな反応をどう思ったのか、
「不躾なことを聞いても良いだろうか」
そう前置きをしたガトーはアムロの表情に視線を向けながら問い掛けた。
「君とシャア大佐は、どのような関係なのだ? 世間で言われている一年戦争のライバルには見えないが……」
「本当に不躾な質問だね」
苦笑したアムロは少し考えるように首を捻り、逆にこちらから問い返す。
「ライバルに見えないと言うなら、どういう関係に見えるって?」
今度はガトーが困惑の表情を浮かべた。不本意ながら麻酔で眠らされている間にこの屋敷に運び込まれ、伝説のパイロットとの初対面は妙なシチュエーションだったのだ。
その時は、初めて実物を見る『アムロ・レイ』があまりにもイメージと違うことに驚いて二人の関係にまで思考が及ばなかったが、確かあの時、コウは『二人がセックスを―――』と言いかけた。その言葉は、すぐ後に入ってきたアムロ自身が否定をしたが、シャアの方は悪びれた様子もなくその後も事ある毎にアムロに妙な絡み方をしている。かつてのライバルをパイロットとして高く評価しスカウトしているのかとも思ったが、どうもそれ(・・)だけではないらしい。アムロに絡んでいる時のシャアは、ガトーが知っている『赤い彗星のシャア』とはこれもまた、あまりにイメージが違うのだ。
「…………恋人同士……とか」
実のところ、軍の人事や戦闘に際して影響を及ぼさない限り、他人の人間関係などにさほど興味を示さないガトーが二人の関係に関心を持ったのは、かつて敵軍として戦いそれぞれの軍のエースパイロットであった筈の二人が、しかも同性である二人が、所謂『恋人同士』のように見えたからである。
恋人同士に見えたと言っても、二人が目の前でいちゃついていた訳ではない。むしろ、アムロはシャアに絡まれる度、迷惑そうな態度であしらっているようにさえ見えた。それでも、二人の間にただの関係ではない空気感があるのだ。『肌を重ね合った者同士の気安さ』とでも言うのだろうか。
一方、アムロはガトーの言葉を聞いた途端真っ赤になったかと思うと、次の瞬間真っ青になった。そしてまた真っ赤になる。
「ど…ど……どうやったら、僕たちがそんな関係に見えるんだっ!?」
胸ぐらに掴みかからんばかりの勢いでアムロがガトーに迫った。
「どうやったら――と言われても困るが、大佐は随分君を気に入っておられるように見えるからな」
間近に迫るアムロの顔から視線を逸らせることなくガトーが言う。そして付け加えた。
「既に身体の関係も―――」
ガトーの台詞の途中で、真っ赤だったアムロの顔が再び真っ青に変わる。
「……ど……どうして知っているんだっ!? まさかシャアの奴が―――」
今度は本当に胸ぐらを掴んでアムロがガトーを締め上げたため、ガトーの台詞は途中で途切れた。相手の言葉を遮った自分の言葉こそが、相手の推測を思いきり肯定しているのだと気付かないほど動揺していたのだろう。
ガトーはアムロに胸ぐらを掴まれたまま、軽く肩を竦めて続けた。
「大佐は何もおっしゃらないが、初めて会った時にコウが言っていたではないか。『二人がセックスを―――』と」
「あの時はやってないっ!」
「………『あの時』は?」
「あ……」
さすがにアムロも自分のミスに気付いたが、誤魔化そうとしてももう遅い。
「忘れろっ! 今のは忘れてくれ!」
またまた真っ赤な顔になったアムロは、ガトーの頭の中からたった今の記憶を消そうとでもするように胸ぐらを掴んだまま揺さぶったが、アムロとガトーの体格差は歴然でアムロが必死で力を込めてもガトーの身体も頭もほとんど揺れたりはしなかった。それがまた悔しいのか更にムキになって、今度は胸ぐらではなく直接ガトーの頭を掴む。
「忘れろっ! 忘れてくれ! よし、忘れたな」
そんなことで記憶を消せる訳がないことぐらいアムロだって承知しているだろうに、同じ言葉を繰り返した。ガトーを洗脳すると言うよりは、どちらかと言うと自分自身を暗示に掛けようとでもしているかのような口調。
そんなアムロの様子を見て、ガトーは久しぶりに腹を抱える勢いで笑った。これが、一年戦争の終盤、ジオン軍を震え上がらせた『連邦の白い悪魔』なのだろうか。たいした誘導尋問をした訳でもないのに、自分の方から墓穴を掘って狼狽える。その狼狽え方がまた可愛らしいのだ。
〔誰かに似ている…?〕
そう思った瞬間ガトーの脳裏に浮かんだのは、何が気に入ったのか犬のように自分に懐いてくるコウの顔。
とは言っても、アムロとコウはむしろ似ている所を探す方が難しいほどどこも似ていない。容姿も性格も経歴も。ニュータイプのプロトタイプと言われるアムロに対して、コウはそのような兆しもない。共通点と言えば、連邦の軍人でガンダムのパイロットだったことだが、このまま行くとコウは連邦軍を辞めることになるだろうから、その共通点すら無くなってしまう。
それでも、あの一瞬、二人が似ているとガトーは思ったのだ。それと同時に、シャアがアムロを構う気持ちが分かる気がした。
「君は可愛いな」
思わず本音を零してしまったガトーの言葉に、
「………はあ?」
アムロは訳が分からないと言いたげに眉を顰める。だが勘の良いアムロは、ガトーの台詞が自分を通して別の人間に向けられているのだと気付いた。
「ああ、なるほどね。そう言うことか」
ニヤリと少々人の悪い笑みを浮かべてガトーの顔を覗き込む。
「そんなにコウが可愛いんだ?」
アムロの逆襲開始だ。
「な……何を言い出すっ!? どこからコウの名前が出てくるのだ」
らしからぬ様子で今度はガトーが動揺を見せた。
「隠しても無駄だよ。僕には何でもお見通しだからね」
アムロが自信ありげに言えば、ガトーはますます動揺した様子で顔を赤らめる。常は誤解されて鬱陶しいばかりだが、今回はニュータイプに対する誤解をせいぜい利用させてもらおう―――内心でアムロがそんなことを考えているとも知らずに。
「………ニュータイプとは、そのように人の心が読めるものなのか?」
低い声で唸るガトーを見ると、もう少し揶揄(からか)ってやりたい気持ちと、あまり誤解させるのもマズイという二種類の思いが脳裏を掠める。自分とシャアの関係からガトーの興味を逸らせるという元の目的は達したようだし、どうしたものかと考えるアムロの顔に、ガトーが探るような視線を向けた。アムロがガトーの頭を両手で掴んだままの状態だったので、二人の距離はかなり近い。
そんな時、リビングのドアが勢いよく開いた。
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