▶0087 vol.1
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0087舞台のシャア×アムロ本です。
ベースはZガンダムですが2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』2011年8月発行の『0084−0087』の続編となっております。一応、前作未読でも読んで頂けるよう書いたつもりですが、前二冊の展開によりシャアとアムロの関係がアニメや映画のZガンダムとは違う設定になっておりますので、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということですが、話は完全にアムロとシャアの物語になっています。その二人贔屓な話になっていますので『Zの主人公はカミーユでないと』と思われる方、また『0083 STARDUST MEMORYのコウやガトーに思い入れの深い方』に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
『クワトロ大尉から連絡。ガンダムMKUを二機捕獲してアーガマに帰投するそうです』
オペレータ報告を受けてアーガマのブリッジが歓声に沸いた。その情報はすぐにモビルスーツデッキにも伝えられ、メカニックマン達が慌ただしく受け入れ準備を始める。
「MKUか」
「楽しみだな」
「どんな機体なんだ」
受け入れの準備を進めながらも、メカニックマン達の間に流れる空気は、どこかしら浮かれていた。メカニックマンなら誰だって、新型の機体には興味をそそられるものだ。それがガンダムと尚更である。
「オレ、あのアムロ・レイが乗ってたRX78のマグネットコーティングに、ちょっとだけ関わってたことがあるんだぜ」
まだ若いがメカニックマンの間でも中心的な存在であるアストナージが、少し興奮気味に言った。
「へえ? そうだったんだ……」
アストナージの近くで作業をしていた男が、少し驚いた表情で一瞬手を止める。標準よりやや小柄な体型と童顔でアストナージより更に若く見えるが、アストナージと同世代の彼も、優秀なメカニックマンだ。
「とは言っても、実際間近でガンダムを見るのは初めてなんだけどな」
マグネットコーティングの研究に携わってはいたが、ガンダムにマグネットコーティングを施す際には立ち会えなかったのだと悔しそうに言ったアストナージが、側にいた男に向かって
「ディー、お前は?」
と問い掛ける。
「え? ―――ああ、僕も初めて……かな」
ディーと呼ばれた男は、何故か少し歯切れの悪い口調で答えた。アストナージは少しばかり不思議そうな表情で話しを続けようとしたが、
『リックディアス、間もなく着艦します』
ブリッジのオペレータから再び指示があり、雑談はお開きになった。
「すげーな」
「これがガンダムかあ」
三機のリックディアスに伴われた二機のガンダムMKUにメカニックマンが殺到する。メカニックマンの興味はあくまでもその機体であるため、ガンダムMKUのコクピットから出てきた見慣れぬ少年に
「誰だ? あれ」
と不審そうな視線を送っても、その少年の存在にそれ以上注目する者はいなかった―――一名の例外を除いて。
「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな」
先に着艦したリックディアスのコクピットから降りたクワトロが、少年に声を掛ける。
「カミーユです。カミーユ・ビダン」
「そうか。では付いて来るといい、カミーユ君。この艦の艦長に紹介する」
名前を名乗る瞬間少し躊躇する様子を見せたカミーユに気づいたものの、そこを追求することはせずクワトロはそう言って相手を促すと、足早にモビルスーツデッキを立ち去ろうとした。だが、ふと足を止め
「君も一緒に来てくれ」
と、先程ディーと呼ばれていたメカニックマンに呼び掛ける。出撃していた機体が戻ってきた今、メカニックマンにとっては猫の手も借りたいほど忙しい時間であるためディーは応じるべきか迷ったが、
「ここは引き受けるから、行ってこいよ」
アストナージに背中を押されて心を決めた。
「悪い。なるべく早く戻るから」
「いいって。それより残念だったな。せっかくガンダムが目の前にあるって言うのに」
揶揄(からか)うようなアストナージの言葉に
「僕の分も、整備するところ残しておいてくれよ」
ディーも軽口で応じる。そしてディーは、クワトロとカミーユと名乗った少年の後を追いかけて行った。
▶0084−0087
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■宇宙世紀0084〜0087が舞台のシャア×アムロ本です。
2007年発行(2011年8月『再録集1』に収録)の『0083』の続編となっております。前作を読んでいらっしゃらない方にも読めるように書いているつもりですが、前作を読んで頂いた方がお楽しみ頂けると思います。
■『0083』の続編ということで引き続きコウやガトーは登場しますが、話の主人公はアムロとシャアです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』という作品やコウやガトーに思い入れの深い方に読んで頂くには不向きな内容となっております。
■サンプル
宇宙世紀0084。この年の年明けは極一部の者達にとって非常に慌ただしく始まった。
0083の年末、地球連邦軍ジャミトフ・ハイマン准将の提唱により一つの組織が結成された。ティターンズと名付けられたその組織はジオン軍残党の掃討を名目に設立されたが、その切っ掛けになった『デラーズ紛争』の戦後処理もまだ終わっていない。
そんな訳で、ティターンズの立ち上げに携わる者達と、デラーズ紛争の戦後処理を担当する者達にとって、宇宙世紀0084はニューイヤーを祝う余裕などなく始まったのだ。
そんな頃、その『デラーズ紛争』によって人生を変えられた者達が、シャイアンのとある豪邸で世の中の流れに注目していた。
一人はデラーズ紛争の首謀者の一人として、ソロモンの悪夢として有名なアナベル・ガトー。デラーズ紛争を死に場所と決めていたガトーだが、本人曰く「また死に損なった」彼は、デラーズ紛争が世界にもたらした結果を見届けることにしたらしい。
そのガトーを死に損なわせた主犯のコウ・ウラキは、デラーズ紛争終盤のガンダム三号機による無断出撃と、敵前逃亡、反逆罪等の罪で連邦軍に指名手配される身になってしまった。その彼は、ティターンズの結成に複雑な思いを抱いている。デラーズ紛争で共に戦った仲間や友人が、ティターンズのメンバーに組み込まれているという話しを聞いたからだ。
ガトー救出の共犯にして、かつて『赤い彗星』と呼ばれ連邦軍から恐れられていたシャア・アズナブルは、デラーズ紛争のお陰で予定よりも早くアクシズを出ることになった。ガトーを連れて一度アクシズに戻る予定だったのだが、その本人に拒否をされた上、連邦軍が新たな動きを見せている今、このままアクシズに戻る訳にもいかなくなったのである。
そして、最後の一人。一年戦争の英雄にしてニュータイプのプロトタイプと呼ばれるアムロ・レイは、デラーズ紛争によって『人生を変えられた』と言うよりも『強引に巻き込まれた』と表現する方が正しい。三人の避難所として自宅に押しかけられたせいだ。
だが、四人は後悔していない。ガトーは、生き残ってしまったことに対して多少なりとも罪悪感めいた思いを持ってはいたが、救出された時に負っていた大怪我がほぼ癒える頃には、生きる気力を取り戻していた。
そんな四人がシャイアンの邸宅での奇妙な共同生活に慣れてきた頃のこと。
「近頃、大佐の姿をお見かけしないようだが」
律儀な性格らしいガトーは、ジオン時代の階級差を気にしているのかシャアに対しては丁寧な態度と言葉遣いを崩さない。最初はアムロにも同じような態度で接していたが、それはアムロが固辞したためアムロに対する態度は砕けたものになっている。
「何だか色々暗躍しているみたいだよ。夜は時々帰って来るけど……」
言いかけてアムロは小さく舌打ちし口を閉ざした。『帰って来る』だなどと言ってしまった自分は、シャアが側に居る生活に慣れすぎてしまったらしい。
アムロのそんな反応をどう思ったのか、
「不躾なことを聞いても良いだろうか」
そう前置きをしたガトーはアムロの表情に視線を向けながら問い掛けた。
「君とシャア大佐は、どのような関係なのだ? 世間で言われている一年戦争のライバルには見えないが……」
「本当に不躾な質問だね」
苦笑したアムロは少し考えるように首を捻り、逆にこちらから問い返す。
「ライバルに見えないと言うなら、どういう関係に見えるって?」
今度はガトーが困惑の表情を浮かべた。不本意ながら麻酔で眠らされている間にこの屋敷に運び込まれ、伝説のパイロットとの初対面は妙なシチュエーションだったのだ。
その時は、初めて実物を見る『アムロ・レイ』があまりにもイメージと違うことに驚いて二人の関係にまで思考が及ばなかったが、確かあの時、コウは『二人がセックスを―――』と言いかけた。その言葉は、すぐ後に入ってきたアムロ自身が否定をしたが、シャアの方は悪びれた様子もなくその後も事ある毎にアムロに妙な絡み方をしている。かつてのライバルをパイロットとして高く評価しスカウトしているのかとも思ったが、どうもそれ(・・)だけではないらしい。アムロに絡んでいる時のシャアは、ガトーが知っている『赤い彗星のシャア』とはこれもまた、あまりにイメージが違うのだ。
「…………恋人同士……とか」
実のところ、軍の人事や戦闘に際して影響を及ぼさない限り、他人の人間関係などにさほど興味を示さないガトーが二人の関係に関心を持ったのは、かつて敵軍として戦いそれぞれの軍のエースパイロットであった筈の二人が、しかも同性である二人が、所謂『恋人同士』のように見えたからである。
恋人同士に見えたと言っても、二人が目の前でいちゃついていた訳ではない。むしろ、アムロはシャアに絡まれる度、迷惑そうな態度であしらっているようにさえ見えた。それでも、二人の間にただの関係ではない空気感があるのだ。『肌を重ね合った者同士の気安さ』とでも言うのだろうか。
一方、アムロはガトーの言葉を聞いた途端真っ赤になったかと思うと、次の瞬間真っ青になった。そしてまた真っ赤になる。
「ど…ど……どうやったら、僕たちがそんな関係に見えるんだっ!?」
胸ぐらに掴みかからんばかりの勢いでアムロがガトーに迫った。
「どうやったら――と言われても困るが、大佐は随分君を気に入っておられるように見えるからな」
間近に迫るアムロの顔から視線を逸らせることなくガトーが言う。そして付け加えた。
「既に身体の関係も―――」
ガトーの台詞の途中で、真っ赤だったアムロの顔が再び真っ青に変わる。
「……ど……どうして知っているんだっ!? まさかシャアの奴が―――」
今度は本当に胸ぐらを掴んでアムロがガトーを締め上げたため、ガトーの台詞は途中で途切れた。相手の言葉を遮った自分の言葉こそが、相手の推測を思いきり肯定しているのだと気付かないほど動揺していたのだろう。
ガトーはアムロに胸ぐらを掴まれたまま、軽く肩を竦めて続けた。
「大佐は何もおっしゃらないが、初めて会った時にコウが言っていたではないか。『二人がセックスを―――』と」
「あの時はやってないっ!」
「………『あの時』は?」
「あ……」
さすがにアムロも自分のミスに気付いたが、誤魔化そうとしてももう遅い。
「忘れろっ! 今のは忘れてくれ!」
またまた真っ赤な顔になったアムロは、ガトーの頭の中からたった今の記憶を消そうとでもするように胸ぐらを掴んだまま揺さぶったが、アムロとガトーの体格差は歴然でアムロが必死で力を込めてもガトーの身体も頭もほとんど揺れたりはしなかった。それがまた悔しいのか更にムキになって、今度は胸ぐらではなく直接ガトーの頭を掴む。
「忘れろっ! 忘れてくれ! よし、忘れたな」
そんなことで記憶を消せる訳がないことぐらいアムロだって承知しているだろうに、同じ言葉を繰り返した。ガトーを洗脳すると言うよりは、どちらかと言うと自分自身を暗示に掛けようとでもしているかのような口調。
そんなアムロの様子を見て、ガトーは久しぶりに腹を抱える勢いで笑った。これが、一年戦争の終盤、ジオン軍を震え上がらせた『連邦の白い悪魔』なのだろうか。たいした誘導尋問をした訳でもないのに、自分の方から墓穴を掘って狼狽える。その狼狽え方がまた可愛らしいのだ。
〔誰かに似ている…?〕
そう思った瞬間ガトーの脳裏に浮かんだのは、何が気に入ったのか犬のように自分に懐いてくるコウの顔。
とは言っても、アムロとコウはむしろ似ている所を探す方が難しいほどどこも似ていない。容姿も性格も経歴も。ニュータイプのプロトタイプと言われるアムロに対して、コウはそのような兆しもない。共通点と言えば、連邦の軍人でガンダムのパイロットだったことだが、このまま行くとコウは連邦軍を辞めることになるだろうから、その共通点すら無くなってしまう。
それでも、あの一瞬、二人が似ているとガトーは思ったのだ。それと同時に、シャアがアムロを構う気持ちが分かる気がした。
「君は可愛いな」
思わず本音を零してしまったガトーの言葉に、
「………はあ?」
アムロは訳が分からないと言いたげに眉を顰める。だが勘の良いアムロは、ガトーの台詞が自分を通して別の人間に向けられているのだと気付いた。
「ああ、なるほどね。そう言うことか」
ニヤリと少々人の悪い笑みを浮かべてガトーの顔を覗き込む。
「そんなにコウが可愛いんだ?」
アムロの逆襲開始だ。
「な……何を言い出すっ!? どこからコウの名前が出てくるのだ」
らしからぬ様子で今度はガトーが動揺を見せた。
「隠しても無駄だよ。僕には何でもお見通しだからね」
アムロが自信ありげに言えば、ガトーはますます動揺した様子で顔を赤らめる。常は誤解されて鬱陶しいばかりだが、今回はニュータイプに対する誤解をせいぜい利用させてもらおう―――内心でアムロがそんなことを考えているとも知らずに。
「………ニュータイプとは、そのように人の心が読めるものなのか?」
低い声で唸るガトーを見ると、もう少し揶揄(からか)ってやりたい気持ちと、あまり誤解させるのもマズイという二種類の思いが脳裏を掠める。自分とシャアの関係からガトーの興味を逸らせるという元の目的は達したようだし、どうしたものかと考えるアムロの顔に、ガトーが探るような視線を向けた。アムロがガトーの頭を両手で掴んだままの状態だったので、二人の距離はかなり近い。
そんな時、リビングのドアが勢いよく開いた。
▶メモロス
《カテゴリ:単独で読める本@既刊詳細》
■1stガンダムが舞台のアムロ記憶喪失ネタです。TVアニメ設定と映画設定を微妙に混ぜつつ捏造満載なので、細かい設定へのツッコミはナシで気軽に楽しんで頂ければ幸いです。
■文中には男性同士の性描写・複数人数による暴力表現が含まれます。直接的な表現はないため年齢制限は設けておりませんが、苦手な方はご注意下さい。また、この話はあくまでもフィクションであり、そのような行為を肯定するものではありません。
■サンプル
サイド6は中立サイドであり、連邦軍もジオン軍も一切の戦闘を禁じられている。とは言え、常日頃生死を賭けて戦っている兵士同士の遺恨が消える訳ではなく、体面や体裁を気にする士官クラスの人間はともかく下っ端の兵士達の小競り合いは日常茶飯事だった。
そんな日常茶飯事の小競り合いにアムロが巻き込まれる羽目に陥ったのは、確かに中立サイドだという油断もあったのかもしれない。だが、原因の大半はアムロが別のことに大きく気を取られていたことにある。ニュータイプと言っても所詮はそんなものなのだと後にアムロは思ったが、巻き込まれたその時はそんなことを冷静に考えるほどの余裕などある筈がなかった。
「父さん!」
買い出しに出掛けてきていたサイド6の街で、アムロは父親の背中を追っていた。
人混みの中でほんの一瞬チラリと見かけただけだが、間違いない。自分のことをエスパーだなどとは思わないが、人より少しばかり勘が良い―――くらいのことは自覚していた。
「父さん!」
遠ざかる後ろ姿に向かって呼び掛けたが、街の喧噪に紛れて声は届かなかったらしい。サイド7で自分がホワイトベースに乗り込むのと入れ違いに姿を消した父がどうしてサイド6にいるのかは分からないが、ここで見失ったら二度と会えないかもしれない。その思いが、アムロから周囲への注意力を奪っていた。
「―――っ」
擦れ違いざま相手と肩がぶつかって、アムロは軽く息を呑んだ。とは言え肩を押さえて蹲(うずくま)るほどの衝撃でもなく
「すみません」
軽く謝罪してすぐにまた父の後を追おうとする。だが強い力で腕を捕られ、振り向いた瞬間アムロは自らの失敗を悟った。
目に入ったのはジオンの軍服。ここが中立コロニーとは言え、相手は敵兵でしかも複数だ。モビルスーツ戦ならこの程度の数の敵を恐れることもないが、生身―――しかも銃すら携帯していないアムロは、白兵戦の専門訓練を受けた訳でもないただの少年である。あっという間に周囲を取り囲まれ、退路を断たれて腕を捕られた。
〔どうしよう〕
こんな時、強気に「放せ」と言って腕を振り払えば良いのか、それとも「放して下さい」と低姿勢で頼んだ方が良いのか、或いは大声で周囲に助けを求めるべきなのか……それすら判断に迷う始末である。
結局のところ、思いついた対処法のどれかを実戦していたところで、こんな時は強気の挑発も弱気の哀願も相手を喜ばせるだけであり、助けを求めた所で見て見ぬふりをされるのがオチだ。事実、複数のジオン兵に引きずられるようにして路地裏に連れて行かれる連邦軍の少年兵の姿を見ても、そんな光景など日常茶飯事なのか、或いは関わりたくないのか、道行く人達は気に留める様子もなく通り過ぎていく。時折アムロに気の毒そうな視線を向ける者もいるが、やはり火中の栗を拾うつもりはないのだろう。慌てて目を逸らせ、足早に立ち去っていった。
「うわっ!」
すっかり人通りのなくなった路地裏で、捕まれていた腕を突然解放されたアムロは、壁に叩き付けられそうな勢いで放り出され尻餅をつきかけた。ギリギリの所で踏み止まったのは、抜群の平衡感覚と反射神経の賜(たまもの)であり、取り囲むジオン兵の中に経験豊富なパイロットでもいれば、相手が優秀なパイロットであることに気付いたかもしれない。
「見かけない顔だな」
「最近ドックに入ってきた木馬の下っ端兵だろう」
「木馬にはあっちこっちの部隊が随分煮え湯を飲まされてるらしいからな。たっぷりと可愛がってやろうぜ」
まさか目の前の少年がその煮え湯を飲ませている張本人だとは思いもしない様子で、男達はニヤついた笑みを浮かべながら口々に言った。
「女ならイイ思いが出来たってのにな」
「男じゃなあ」
「サンドバッグ代わりに殴ってストレス解消でもするか」
ニヤニヤと笑う男達の表情を見るに、サンドバッグの代わりにされるのと『イイ思い』とやらの標的にされるのと、どちらがよりマシ(●●●●)なのか分かったものではない。少なくとも自分が男で良かったなどと喜ぶ気にはなれなかったが、アムロはこんな場合だというのに何故かふとフラウ・ボウのことが心配になった。
〔僕がいつまでも帰ってこないと心配して、一人で探しに来なきゃいいけど〕
以前ホワイトベースを飛び出した時も、単身で自分を探しに来てランバ・ラルの部隊の兵に捕まったことがある。
〔あの時は捕まったのがランバ・ラルの部下だったから良かったけど、こんな奴らにフラウが捕まったら……〕
今は自分の身が危ないと言うのに、そんなことを考えてしまうのは、目の前の恐怖から逃げるための現実逃避だったのか。いや、どちらかと言うとアムロはこんな状況にもかかわらず、何故かあまり恐怖を感じていなかった。この人数の包囲網を突破して脱出する自信がある訳ではない。にもかかわらず危機感が薄いのは、本能が―――ニュータイプの能力とも言われる勘がアムロに危険を告げてこないからだ。
最前線で戦うモビルスーツのパイロットという常に死の危険と隣り合わせの日常を過ごしているせいか、『危険』に対する認識のラインがおかしくなっているのだろうか。しかし、呑気にもそんなことを考えていたアムロは、男達の会話に自分の耳を疑った。
「こいつ、よく見ると結構可愛い顔してやがるぜ」
「どれどれ……おっ、ホントだ」
「男っつってもまだガキだし、女の代わりに使えるんじゃないか?」
「おいおい、オレはそんな趣味ないぜ」
男達は下卑た笑みを浮かべながら、明らかに先程までとは違う視線を向けてくる。サンドバッグ代わりに殴られるのと、どちらがマシか―――などと考えていたことも忘れたように、アムロは真っ青になって後退った。
「へえ、震えてやがるぜ」
アムロの腕を掴んだ男がニヤリと笑う。
「―――放せっ!」
思わずそう叫んで腕を振り払おうとしたアムロの反応は、男達を喜ばせただけらしい。
「可愛いじゃねーか」
「なんかオレもその気になってきたぜ」
そんな趣味はないと言っていた男まで、興が乗った様子でアムロの顔を覗き込んだ。
「放せっ、放せったら!」
男達に押さえ込まれてアムロはジタバタと暴れながら叫んだが、当然ながら男達の腕が緩む筈はなく逃げ出すことも叶わない。
「手っ取り早く脱がせちまおうぜ」
「脱がせるより破く方が早いんじゃねーか」
「ああ、その方が手間が無くていい」
彼らがわざとらしく口に出して言ったのは、ただ単に確認のためか。それとも、アムロを更に脅して怯える様子を楽しんでやろうとでも思ったのか。
いずれにしても、ジオン兵の彼らが連邦軍の制服に遠慮する理由はない。躊躇することなく伸ばされた手が、アムロの身に付けているものを引き裂いた。
服の下から現れたのは、まだ成長途中ながら少年期を脱した瑞々しい肢体。年齢的なものではなく元々の体質なのだろう。体毛が薄く滑らかな肌を目にした男達が、無意識にゴクリと喉を鳴らす。
「たまんねーな」
一番にその肌に触れた男が溜息混じりの声で言った。それに触発されるかのように、男達の手が次々と伸ばされる。
「見ろよ、可愛い乳首してやがるぜ」
「これで胸が膨らんでりゃ最高なのによ」
胸元をなで回す手に胸の先端を摘み上げられて、アムロは悲鳴をあげた。
「こいつ、まだチェリーちゃんなんじゃねーの」
「女の味を知る前に男に犯(や)られるなんて可哀相になあ」
揶揄混じりの笑い声をたてる男達の手がアムロの下半身にも伸ばされたが、アムロにとってそれはただ生理的嫌悪感をもたらすだけのものだ。
「大人しくしてりゃ、お前にもいい思いさせてやるぜ」
ニヤニヤと笑う男の一人が、僅かも反応していないアムロの分身を服の上からゆるゆると撫で上げる。
「ひゃっ―――」
一番敏感な部分に与えられた突然の刺激に、アムロの声が跳ね上がった。どんな状況であろうと、そこに触れられて感じないのは不感症の男ぐらいのものだ。
「や……嫌だーっ!」
嫌がる声やその表情、仕草すらも男達を喜ばせるだけなのだと、そんなことはアムロには分からない。悔しさのあまり涙を浮かべながら必死の抵抗を続けたが、自由を取り戻すことは出来なかった。
「いい声で啼くじゃねえか」
「もう我慢出来ねーっ、下もさっさと剥いちまえよ」
台詞と共に下半身を覆う布にも手をかけられ、絶望的な状況を思い知る。ガンダムに乗れば敵無しのアムロも、生身では非力なただの少年だった。
男達の興奮が頂点に達し、アムロの目の前が絶望で真っ暗になった時―――
「そこまでにしておけ」
男達の背に静かな声が掛けられた。
「せっかくの楽しみを邪魔するとはいい度胸――……」
「自分が可愛かったらさっさと立ち去―――……」
「オレ達に向かって指図しようって―――……」
一斉に振り返った男達は口々に相手を罵ったが、相手の姿を目にした途端息を呑む。言葉は途中で途切れ、先程までの喧噪が嘘のように辺りが静まり返った。
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