▶4つの名前
《カテゴリ:0083シリーズ@既刊詳細》
■シリーズの番外編的な話
■『THE ORIGIN』でシャアがシャアの名前を手に入れた経緯とジンバ・ラルの扱いについて残念に思ったゆえの捏造作品です。
■サンプル
それは宇宙世紀0086。アムロ・レイのシャイアンの屋敷に、ソロモンの悪夢と言われたアナベル・ガトーと元連邦軍パイロットのコウ・ウラキが居候のような形で同居し、そこにかつて赤い彗星と呼ばれたシャア・アズナブルが度々顔を出すという奇妙な生活が間もなく終わりを告げようとしていた頃。
「どうしてドゥエ・ブルーノなのだ!?」
シャアは明らかに『納得しかねる』といった表情でアムロを問い詰めた。
「いや、特に拘りがある訳じゃないんだけど…」
シャアの勢いにむしろ困惑した様子でアムロが肩を竦める。
クワトロ・バジーナという偽名でシャアがエゥーゴに参加することが決まっており、続いてアムロもエゥーゴへの参加を決意したのだが、現在のティターンズとエゥーゴの組織力や戦力差を考慮して、アムロ・レイがエゥーゴに参加することは当面公表しない方が良いのではないかという話しになり、ならばアムロにも偽名の身分証明書が必要であろうということになった。それについてはシャアに当てがあるということなので任せることになったのだが、名前をどうするかという話しになってシャアとアムロが揉めたのだ。
「偽名と言われても特に思いつかないから、貴方が4(クワトロ)だから僕は2(ドゥエ)で良いかな…とか」
「そんな安易な」
横から口を挟んだのはガトーである。別にシャアの肩を持つつもりはなかったが、自分が名乗る名前なのだからもっと慎重に考えるべきだ、と生真面目な彼らしい主張をした。
「そう言われても、そんなに長期間名乗る予定でもないんだから」
事実、アムロは自分の偽名に何の拘りもなかったので、シャアがその名前はどうしても気に入らないと言うのなら変えても良かったのだが、シャアとガトー二人から責めるように言われては何となく面白くない。素直に別の名前を考え直すか、意地を張り通すか―――迷った、というよりもこの場にいるもう一人はどう思っているのか少しばかり興をひかれて視線を向ける。
「あ…あの、僕はアムロさんの偽名以前に、どうしてシャアさんの偽名が4(クワトロ)なのか分からないんですけど」
アムロの視線を受けたコウは素直な疑問を口にした。
「アムロさんの2(ドゥエ)に負けるのが気に入らないなら最初から4(クワトロ)じゃなくて1(ウノ)とか0(ゼロ)とかにしておけば良かったんじゃないんですか?」
と。
「そんな安易な」
またもや真面目なガトーがコウを叱ったが、コウの言葉でガトーもクワトロ(シャアの偽名)を疑問に思ったらしい。
「確かに4(クワトロ)とは大佐らしくない名前だと思いますが…」
今更ながら、シャアがこの偽名を選んだ理由に興味を覚えたようだ。
理由を聞きたがる二人の言葉を耳にしてアムロは困った様子でシャアを見たが、当のシャアは特に迷う様子もなく口を開いた。
「クワトロを選んだのは単純な理由だ。それが私の4つ目の名前になるからな」
ガトーは「そんな安易な」とは言わなかった。
「4つ目の名前っ!? シャアさんって今までそんなに何度も偽名を名乗ってきたんですか?」
これまで偽名など一度も名乗ったことがないコウが驚きの表情で口にしたのとほぼ同じ台詞を心の中で叫んでいたからである。ただ、コウよりも人生経験豊富かつ思慮深いガトーは、この話題をこれ以上突っ込んで良い物かどうか迷ったのだ。チラリと視線を向ければ、アムロも同じように思っているらしい表情をしている。
そんな二人の憂慮を余所に、
「驚かせて悪いが君がたった今口にした『シャア』という名前も偽名の一つだぞ」
シャアは更なる爆弾発言をした。
今度はアムロとガトーの表情がきっちりと二つに分かれる。
『あーあ、言っちゃった』
とでも言いたげに肩を竦めたアムロに対して、ガトーは驚愕のあまり言葉も出ない様子だ。
「えーーーっ! 嘘でしょう? それなら僕はこれからシャアさんのことを何て呼べばいいんですか!?」
微妙に論点のずれているコウの台詞に
「問題はそこではないだろう!」
と言葉が出たのは。たっぷり三十秒近くも絶句してからである。
「いや、今まで通りシャアと呼んでくれて構わないが」
コウの反応が面白かったのか、クスクスと笑いながらシャアはアムロに向けて問い掛けた。
「君はどこまで知っている?」
「貴方の本当の名前はセイラさんから聞いた。セイラさんの名前(マス)のことを考慮すれば『シャア』が3つ目の名前だってことは想像出来る」
だからエゥーゴに入るためにシャアが用意した偽名が4(クワトロ)だと聞かされた時にも『単純だなあ』と思いこそすれ、特に疑問には思わなかった。それどころか、自分も偽名を考えなければならなくなった時、『自分は2つ目の名前(初めての偽名)だから2(ドゥエ)でいいか』と安易に考えたぐらいなのだ。
「でも、それだけだ。セイラさんは、貴方の過去(プライバシー)に深く食い込むような話しまでした訳じゃないぞ」
セイラの名誉のためにも断言したアムロに軽く頷いて、
「そうか。ならば、この二人に説明がてら少し昔話に付き合ってもらえるか」
シャアは語り始めた。
「父が暗殺されたあの日……私とアルテイシアは一人の男に助けられて、始めて地球に降りてきた」
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