▶再録集5
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■収録内容
【手に入れたいもの・番外編1】
【手に入れたいもの・番外編2】
【Jealousy】
『手に入れたいもの(再録集3)』の続編です
■サンプル
血を分けた後継者は残さない代わりに総帥としての役割はきっちり果たすと誓ってから、シャアは忙しい日々を送っていた。独裁政権という形式は取っていても、自分の一言で全てが動く訳ではない。相次ぐ会議を終えてようやく屋敷に戻ったシャアは、自室の扉を開けた途端、奇妙な違和感を覚えた。
「お疲れ」
アムロがそう声を掛けて迎え入れてくれたのはいつもの通り。直前まで誰かと通信をしていたのか、通信機を兼ねたコンピュータ末端の画面が明るく、まだ通電していることを示している。
ここはシャアの私室であると同時にアムロの私室でもあったから、アムロが自由に使えるようにと専用の末端機も備えられていた。アムロが個人的に通信をしている相手が気にならないと言えば嘘になるが、アムロにはアムロの付き合いや人間関係があると自分を納得させ、必要以上に干渉はしないと決めている。何があっても一生側にいると、そう約束してくれたアムロをこれ以上束縛するのは我が儘でしかないと解っていた。
「食事は?」
そう問われて、シャアは先程感じた違和感を確信に変えた。この時間に戻った自分が食事を済ませてきている事などアムロは分かっている筈だ。だからアムロの問い掛けは会話を繋ぐ為のもの―――つまりアムロが『何か』から話しを逸らしたがっているという事だ。
「済ませた。君は?」
何から話しを逸らせたがっているのか―――恐らく直前までしていたらしい通信に関係があるのだろうとは想像出来たが、シャアはそれについて追求せずアムロの話題に乗った。
「済ませたよ。と言うか、貴方が居る時はともかく俺一人の時は食事の準備なんて適当で良いって言っておいてくれないか」
特に引っ張るような話題でもなかったが、アムロはこの機会に普段から思っていた事を提案する。ネオ・ジオンの総帥であるシャアの屋敷は、屋敷の管理や主人の身の回りの世話をする為にそれなりの数の人間が従事している。当然ながらその従業員達による『身の回りの世話』は屋敷の主人の同居人であるアムロにも及んでおり、その手厚い世話振りから逃げ出したくなる事があるのだ。所謂『使用人』に身の回りの世話を焼かれるのはシャイアン時代に慣れているが、あの頃の使用人は軍が差し向けてきたスパイと割り切る事が出来た。ところが今はシャアに対するのと同じ恭(うやうや)しさで自分に接してくる彼らの態度が、アムロにとっては居たたまれなかったりする。
「適当で良いと言っても、彼らの控え室で一緒に食事をするという訳にはいかないだろう」
「別にそれで充分だよ」
むしろアムロとしては自分一人に対してシェフがやけに豪華な食事を作り、複数の人間が給仕をする方が奇妙だし無駄に思えた。
「君の言い分は分からなくもないが、世の中には形式や建前が必要な事もあるからな。彼らも仕事なのだ。付き合ってやってくれ」
「形式や建前ね……」
シャアの立場は分かっているから、そう言われてしまうと諦めるしかない。さりげなく末端機の電源をオフにして立ち上がったアムロは、着替えるために上着を脱いでいるシャアを眺めながら雑談を続けようとしたが、シャアは脱いだ上着をソファの背に放り出すと、雑談を強制終了させた。
「……………貴方ね。帰ってきた早々これはないんじゃないかっ!?」
強制的に口を塞がれる形になったアムロが、解放された早々抗議をする。
「食事はもう済ませたのだろう?」
「そういう問題じゃなくて……もう少し他にする事があるだろうが」
「例えば?」
「ティータイムとか……」
「コーヒーなら食事の時に飲んだ。君もそうだろう?」
確かに、ここのシェフや給仕は食後のお茶からデザートまで徹底していた。
「なら、飲みながら少し話そう」
コーヒーやお茶ではなくアルコールを片手に語り合うのも悪くないと、アムロはそう提案したが、
「話しなら、先程まで誰かと通信していたのではないのか?」
シャアの切り返しがマズイ方向に向かったため、提案を自ら却下せざるを得なくなる。
「分かったよ。なら、せめてシャワーを浴びてからにしよう」
別にアムロだってシャアとのセックスは嫌いではない。想う相手に求められるのは嬉しいという気持ちもあった。ただ、相手が同性で自分が『抱かれる側』であることに多少照れがあるだけで―――
「では一緒に済ませてしまうか」
「却下だ」
以前、その提案に乗って酷い目に遭った事がある。明るいライトの元で見る均整の取れたシャアの裸体に見とれて、相手も同じ条件でこちらの身体を見ているのだという当たり前の事をうっかり失念していた。照れる暇もなく気がついた時にはシャアの腕に抱き込まれ、『さすがに3倍速と言われただけある』などとつまらない事を感心している隙に相手はすっかり臨戦態勢で。抵抗も抗議も出来ないままコトに及ばれてしまったアムロは、立ったままという体勢とシャワーの湯気に体力を奪われて大いに後悔したのだ。
「一緒が駄目ならシャワーは後で良い」
「先に浴びた方がスッキリするじゃないかっ!」
「別々にシャワーを浴びるのは時間が掛かる」
二人は暫くの間お互いの主張を申し立てたが、意見の一致を見るのは難しいと判断したシャアは行動に出る事にした。アムロの腕を取って抱き寄せると、明確な意志を持ってシャツの中に指を忍び込ませる。
「こ―――こらっ、まだ話しは終わっていないぞ」
「シャワーも話しも後で良い」
シャアの腕から逃げ出そうとするアムロと、そのアムロの陥落を目論むシャアの攻防は、腕力と経験に勝るシャアに軍配が上がった。
「―――ン……っ…」
身体のラインをなぞっていた指がシャツをたくし上げると、現れた胸には既に勃ち上がった突起が存在を主張している。口に含んで舌で転がせば、腕の中の身体がビクリと震えた。本能的に逃げを打つ身体を更に強く抱き込んで、軽く歯を立てる。
「や……ァ―――」
敏感になっている部分に歯を立てられて、アムロは思わずシャアにしがみついた。こうなってしまうと、もう途中で止められない事は二人とも解っている。
「どうする? 先にシャワーを浴びるか?」
意地悪く問い掛けるシャアの髪を、アムロは思いきり引っ張ってやった。
「―――っ……少し力を入れすぎではないか?」
抜けたらどうする、と苦情を言うシャアに、
「ハゲたら遠慮無く捨ててやるよ」
少しばかり溜飲を下げたアムロがクスリと笑う。本気でシャアの機嫌を損ねると後でそれが自分にはね返ってくる事は分かっているので、その辺りのさじ加減は絶妙に。
どこか挑発的な雰囲気と媚びの入り混じった笑顔に誘われて、シャアはアムロのシャツを脱がせながら近くのソファに倒れ込んだ。アムロももう抵抗することはなく、むしろ積極的にシャアのシャツのボタンを外す。現れた肌に唇を寄せ少し強めに吸い上げると、白い肌に鮮やかな痕がついた。
「貴方、色が白いから目立つな」
嬉しそうに囁いたアムロは更にマークを付けるべく唇を寄せたが、相手からの攻撃を一方的に受けてばかりいるシャアではない。
「ア―――っ……おいっ、見える所には止せっていつも言ってるだろう」
相手が抗議をする前に、項の際どい所に素早く反撃の印を付けた。暫くじゃれ合うかのようにお互いの肌にキスを振らせていた二人だが、やがてそれにも飽きたのかシャアの指がアムロの下半身に伸びる。アムロの方もシャアの身体に腕を回し、二人の唇が再び重なって甘い空気が辺りの雰囲気を変えたその時―――アムロの目が驚きに見開かれ、シャアの身体は無様にもソファから転がり落ちた。もうすっかり『その気』だと油断していたアムロによって蹴り落とされたのである。そのアムロの視線の先には、この屋敷の執事を務めている男がグラスの載ったお盆を手に表情も姿勢も乱すことなく立っていた。
「ブランデーをお持ちしたのですが」
感情を込めない冷静な声で言われて、アムロが思い出す。
「え―――? ああ……そう言えばお願いしてましたね」
この情況を取り繕う余裕もなかった。
「申し訳ありません。ノック致しましたら扉が勝手に開いてしまいましたので」
丁寧に頭を下げた彼は、テーブルに盆を置いて何事もなかったかのように立ち去る。ニュータイプと言われる二人が見ても最後まで感情の乱れが感じられない彼の言動は執事の鏡とも言えるほど見事なものであったが―――
「何故ブランデーなど頼んでいたのだ?」
これからという所で邪魔をされる形になった(しかも蹴り飛ばされてソファから転げ落ちた)シャアが不機嫌な声で問い掛けた。
「貴方が帰ってくる前に頼んでいたんだから仕方がないだろう! そっちこそ、何でドアをちゃんと閉じておかなかったんだっ!?」
妙な場面を目撃されて羞恥のあまり真っ赤になったアムロも黙ってはいない。
「故意ではない。閉めたと思っていたが閉まっていなかったのだ」
「ちゃんと確かめろよっ! お陰で恥をかいたじゃないか」
「今更だろう。屋敷の者達は皆、承知の事だ」
「そういう問題じゃないっ!」
明日の朝、彼にあったらどんな顔をすれば良いのか――
「形式や建前なんか必要ないっ! やはり自分の事は自分でするからと屋敷の人達に言ってくれ」
「だから、今更だと言っている。それとも何か? まさか君はベッドメイクや掃除、洗濯まで自分でするとでも?」
少々意地の悪い口調で問いながらシャアは立ち上がり、辺りに散らばっていたシャツを拾い上げた。さすがに続きをする勢いを削がれたのか、アムロの分を手渡し自分もシャツを羽織る。
「やらせてくれると言うのなら喜んでやるぞっ! その分、恥をかく回数も減るからな」
差し出された服を着込みながらアムロも少しばかり喧嘩腰に答えたが、シャアの次の台詞にボタンを留めていた手を止めた。
「おや、アムロは私の嫁になる気か?」
「…………何でそうなる」
「家事を引き受けたいと言ったではないか」
「必要以上に至れり尽くせりな今の待遇を遠慮したいと言っただけだっ!」
甲斐甲斐しくシャアの身の回りの世話をしてやろうなどと言うつもりはない。自分はそんな事をするためにここ(ネオ・ジオン)に居るのではないし、シャアも求めていないだろう。だからシャアが自分を揶揄(からか)っているのだと解ってはいるのだが、ついムキになって言い返してしまうのだ。
とは言え、いつまでもムキになって毒舌合戦をしていても仕方がない。ここはせっかくの機会だ。アムロはボタンを最後まで留めると改めて口を開いた。
「嫁云々はともかく、ベッドルームの掃除ぐらいは自分でやると言ってくれないか? お前の言う事なら彼らも聞いてくれるだろうし。それと―――」
「それと?」
言葉を切ったアムロにシャアが先を促すと、アムロの視線が泳いだ。よく見れば僅かに顔が赤い。
「シーツの洗濯は自分でするから」
「何故そんな面倒な事を?」
不思議に思ったシャアはそう問い掛けたものの、次の瞬間には理由を悟って吹き出した。
「君がそんなに繊細だとは知らなかったよ」
笑いながら苦しい息で台詞を絞り出すシャアをアムロが赤い顔で睨み付ける。
「繊細で悪かったな! 貴方も一度、部屋のシーツを回収しにきた現場に立ち合ってみろ。俺の気持ちが分かるから」
最近はアムロもパイロットの訓練に付き合ったりモビルスーツの開発工場を訪れたりと外に出ている事も多いが、それでもシャアに比べればシーツ回収シーンに遭遇する確率は高い。情事の跡をそのままにしている訳ではないが、全てを隠しきれる筈もなく居たたまれない思いをする事は避けられなかった。
「そうまで言うなら、シーツは使い捨てにするか?」
収まりきらない笑いをようやく堪えながら問い掛けるシャアを、
「そんな勿体ないこと出来るか、バカ」
アムロが怒鳴る。
「しかしな。真面目な話し、君にシーツの洗濯をさせる訳にもいかないだろう」
「なら、貴方がすればいい」
半ばヤケクソ気味で言って、アムロはガックリと肩を落とした。シャアがシーツを干しているシーンを想像してみたのだが、あまりにも似合わない。第一、もし本当にそんなことをすれば、屋敷の者達が全力で止めに来るだろう。ネオ・ジオンの総帥たるシャアがシーツを洗濯しているなどという噂が広まろうものなら、ナナイやホルストだって黙ってはいない―――と思う。
「言っておくが、シーツの洗濯が恥ずかしいから別々に寝ようなどという案は却下だからな」
「………なるほど。そんな事は考えつかなかった。良い案だな、それは」
「だから、その案は却下だと言っている」
釘を刺したつもりが墓穴を掘る形になり、シャアは慌てて付け加えた。
「分かってる。冗談だよ。いくら何でも、それじゃあ俺がここにいる意味が無いじゃないか」
言ってからアムロは自分がとんでもない台詞を口にした事に気付く。
「い………言っておくけど、俺は別に貴方とのセックスが目的でここにいる訳じゃないからな」
「勿論、分かっているとも。愛しているよ、アムロ」
真っ赤な顔で呟くアムロを抱き締め、シャアはクスクスと笑いながら嬉しそうに言った。
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