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▶再録集4

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■収録内容
【戦士たちの休息】全編

Z終了直後〜CCAの時間軸で二人が逢瀬を繰り返すほのぼの話

■サンプル

「やあ、久しぶり。元気そうでなによりだ」
 そこにいるはずのない男が、行方不明の筈の男が、あまりに自然に手を挙げたので、思わず答えてしまった。
「そっちも元気そうだね」
と。


「それで――こんな所で何をしているんだ?」
 アムロの口から当然の質問が口をついて出たのは、無断侵入の男にコーヒーを入れてやってからだった。
「コーヒーを飲んでいるが?」
 お約束のボケに白い目を向けると、相手は軽く肩を竦める。
「……と言うのは冗談で、人の家を訪ねてきたのだから、その家の主に会いに来たに決まっている」
「で、留守だったから勝手に部屋に入ったと?」
 悪びれた様子もなく「その通り」と頷くシャアにアムロは呆れて溜息をついた。
 シャイアンに監禁されていた頃とは違い、ここは軍から押しつけられた住まいではない。当然ながら部屋に数多く仕掛けられた監視カメラや盗聴器のような物はないが、一応有名人の自覚はあるのでセキュリティはそれなりのマンションを選んでいる――つもりだった。
「こうも簡単に無断侵入を許すようじゃ、もっとセキュリティレベルの高い部屋に引っ越す必要があるな」
「その必要はない。このマンションのセキュリティはなかなか優秀だ」
「そのセキュリティを破って侵入した奴が言っても説得力がないと思うけど?」
 自分もコーヒーを口にしながら皮肉ってやったが、その口調に棘はない。アムロが自分を咎めるつもりはないと察したシャアは、小さく笑ってタネを明かした。

 それによると、マンションのエントランスに設置されていたナンバーロックは簡単に解除出来たが、先ほどのシャアの台詞通りこのマンションのセキュリティは優秀で、網膜識別装置でロックされた部屋のドアを開ける事は出来なかった。仕方なくシャアは部屋の玄関先でアムロの帰宅を待つつもりだったのだが、一時間ほど待った頃、制服姿の女性が現れて身分などを問い掛けられたらしい。このマンションには各区画にカメラが設置されていて、その映像はマンションの総合管理室で人間によって監視されているのだ。
 機械と人間―――この二重の管理体勢にシャアは感心したが、咄嗟にシャアはそれを逆用することを思いついた。


「その警備員に、私は君を訪ねてきた友人なのだが運悪く入れ違いになってしまったらしいと話したら、彼女が玄関のロックを解除してくれたのだ」
 確かに緊急事態に備え、総合管理室では各部屋のロックを解除する事が出来る。とは言え―――
「プロの警備員が、そんなに簡単に不審者を信用してロックを解除するとは思えないけど」
 疑り深いアムロの視線に、「不審者とは酷いな」とシャアは見当違いのコメントを返したが、アムロの疑問を誤魔化す意図はなかったらしい。少しばかり得意げな笑顔で言葉を続けた。
「私がどうやって『クワトロ・バジーナ』の身分を手に入れたと思う?」
 つまり、彼は地球連邦軍の軍人としての身分証明書を手に入れる事が出来る程度には、連邦軍のどこか―――恐らくはかなり上層部にコネクションがあるのだ。
「それにしても、同じ連邦軍所属の軍人証を持っているからって、友人なんて台詞を信用するか? 第一、例え本当に友人だったとしても、家主に無断でロックを解除し、警備員の判断で勝手に相手を部屋の中に入れるとは思えない」
 当然のアムロの疑問に、今度は悪戯を見つかった子供のような表情でシャアが笑った。
「ああ、そこはね………現れた警備員が若い女性だったのが幸運と言うしかないな」
「…………それって『色仕掛け』って言わないか?」
「ああ。まあ、そうとも言う」
「そうとしか言わないよ、まったく」
 シャアに……というよりもむしろ、プロのくせに色仕掛けに引っ掛かった警備員の方に呆れたが、中世ヨーロッパの貴族を思わせる美しい金髪に青い瞳、表情さえ取り繕えば上品な紳士で通用する整った顔立ちに加え、演説をすれば民衆を扇動出来るだけの弁舌と人を惹き付けるカリスマ性―――連邦軍の身分証明書を見せられた若い女性警備員が誘導されるまま相手の意に従ってロックを解除してしまった気持ちも解らなくもない。
「結局、どんな優れたマシンも使う人間次第ってことだな」
 これじゃあ『網膜識別装置』なんてご大層なセキュリティも意味がないと皮肉ったアムロに、何故か当のシャアが真剣な表情で頷く。
「その通りだ。一年戦争のガンダムだって、パイロットが君でなければ宝の持ち腐れ。あれ程の活躍は出来なかった筈だ。いや、活躍する前に私が墜としていた」
「………そりゃあ、どうも。ガンダムとパイロットを褒めて頂いて」
 無表情を装いそっぽを向いてアムロは素っ気なく呟いたが、ほんのりと赤く染まる頬をシャアは見逃さなかった。
「照れる事はないだろう? 事実なのだから」
 シャアがクスクスと笑う。
「べ――っ、別に照れてなんかいない」
 自分でも説得力がないと自覚しながら、アムロは嘘を押し通す。そう―――嘘。本当は照れていた。シャアの台詞が嬉しくて……くすぐったかった。一年戦争の時、ある男に言われた言葉は、その後ニュータイプと呼ばれパイロットとしての腕を認められてからも、小さなコンプレックスとして心の端に引っ掛かっていたのだ。
『自分の力で勝ったのではないぞ。モビルスーツの性能のお陰だということを忘れるな!』
 だが、パイロットがアムロだったからこそとシャアは言う。いつだってアムロを一番高く評価しているのは目の前にいるこの男。
「ありがと…」
 アムロは相手には届く筈のない小さな声で呟いた。


「で、結局何をしに来たんだよ?」
 最初の話題が再燃した時、二人は何故かアムロのマンションの部屋で一緒に夕食を取っていた。
「夕食を食べに来た、なんて台詞は聞かないぞ」
 先ほどの会話を思い出し、しっかり先に釘を刺しておく。
「君に会いに来たと言っただろう?」
「だったら、さっさと用件を言え」
 まさか茶飲み話をしにきた訳じゃないだろう?と詰め寄るアムロに、
「それに近いかもしれないな」
とシャアが言う。
「一言、挨拶しておこうと思ってね」
「挨拶?」
 それこそ訝しげにアムロが問い返した。今更挨拶などが必要な関係ではない。
「君には私が生きているという事を知っておいて欲しいから」
 グリプス戦役が終結してから十ヶ月ほどが経った今、表向きは戦場で行方不明になったとされている『クワトロ・バジーナ大尉』は、状況から考えて生死は絶望というのが通説だった。元々シャアはそれを狙ってあのタイミングで姿を隠したのだが、アムロにだけは知っておいて欲しかったのだ。自分が生きているという事を。だが、それを聞いた相手の返事は冷たいとさえ言えるほどそっけない。
「なんだ、そんな事を言いにわざわざ地球へ降りてきたのか?」
「………そんな事?」
 それまで穏やかな表情で微笑んでいたシャアが眉を顰める。誠意を込めた自分の言葉を『そんな事』と片付けられるのは不本意だった。
 一方のアムロは、シャアの不穏な気配に気付いているのかいないのか―――前言を撤回する様子もない。
『私の生死など、君にとってはどうでも良い事だと?』
 シャアがそう問い詰めるより早くアムロが口を開く。
「そんな事、わざわざ良いに来なくても知っていた。貴方が死んだなんて思った事は一度もないよ」
 何を根拠にか、きっぱりと言い切ったアムロの顔にシャアが驚愕の視線を向け………きっかり3秒後にその表情がふわりと緩んだ。
「そうか…知っていた……か」
 過去も現在も、そして恐らくは未来も-―――誰よりも自分を理解してくれるのは、敵でありライバルでもある彼。この先、お互いの道が再び分かれる事があっても、それだけは変わらない。
 それでも―――
「側にいて欲しい…」
 シャアは、その言葉を相手に届く声で伝える事は出来なかった。

No.16 : Posted at 2018年08月19日 22時38分04秒 - Parmalink - (Edit)